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2008年7月30日

広橋涼対水橋かおり

2008年Jリーグディビジョン1第19節
アルビレックス新潟 2-1 コンサドーレ札幌
得点者:札幌/ダヴィ
     神戸/マルシオ・リシャルデス、アレッサンドロ

 マルシオリシャルデス選手のコメント「立ちあがりはプレーが速く、ボールの動きも速く、いろんなものが速かった。

 いろんなものが速かったならしょうがないなぁ…。

 そんなわけでアルビレックス新潟とのアウェイ戦です。前半戦の札幌ドームでの試合は、ダヴィが千代反田にヘッドバッドをお見舞いして一発退場したことが響き、新潟DF松尾のクロスがそのままゴールに入っての失点を取り返すことが出来ず、結局0-1で破れています。その頃の新潟は1勝4敗2分で16位と絶不調で、その試合でも10人の札幌に対してほとんど攻撃の形を作れないどん底の状態でしたが、この勝利をきっかけに息を吹き返し、その後は5勝2敗3分で10位にまで順位を上げています。対して敗れた札幌は、2試合出場停止となったダヴィの不在もあって2勝5敗3分とほぼ対照的な成績。ここ4試合は負けはないものの、未だに降格圏内から脱出できていません。なぜだかFF7のバレットの「どんなに汚されていても地ベタが好きなのかもな」というセリフが思い出されますが、この試合で勝てば16位の横浜F・マリノスと勝点が並ぶことになります。得失点差で順位こそ変わりませんが、残留に向けて大きな弾みになることは間違いないでしょう。
 しかし状況はそう簡単ではありません。札幌は芳賀主将とGK高木貴弘が共に前節のレッドカードで出場停止。潰し屋と守護神を欠く事態に、三浦監督は高木の代わりに佐藤優也を、芳賀の代わりにディビットソン純マーカスを入れてきました。まぁ予想された布陣ですが、15%くらいスケールダウンは否めません。しかも新潟にとってここビッグスワンは、地元の大観衆の声援をバックにできる名実共にホームスタジアムであり、J1に昇格してからここまでリーグ、カップ、天皇杯を含めて通算で91試合を行い、38勝27敗26分。勝率は4割1分、引き分けを含めた「負けない率」はなんと7割となり、新潟のチーム力から考えれば異常なまでの強さを誇っています。札幌はJ2時代の2003年、第26節で1度だけここで試合を行っていますが、オウンゴールで先制したはいいもののその後マルクスの4点を含む5点を叩き込まれる惨敗を喫し、当時のジョアンカルロス監督が試合後に辞任。昇格の夢が事実上潰えた試合として、当時の反町康治監督の「札幌はギャンブルサッカー」というコメントと共にサポーターの記憶に深く刻まれることとなりました。
 その時戦ったメンバーは新潟は誰1人として残っておらず、札幌もその試合でベンチスタートだった砂川と西澤画伯(出場はせず)の2人だけで、あとは怪我で戦線を離脱しているソダンがスタメンで出て、そしてGKがその時も「佐藤」という苗字だったという、一見関係ありそうで全然関係のないことくらいです。

 そんなわけで試合ですが、開始1分も立たないうちにぽんぽんと枠を繋がれ、田中亜土夢からのグラウンダーのクロスをマルシオ・リシャルデスに押し込まれ先制されてしまいました。何となく点を入れられてしまった格好ですが、よくよくこの失点シーンを見てみると、これ完全に取られるべくして取られた点だったと思います。
 まずシュートの1つ前のプレイ、クロスを入れた田中亜人夢に対してくさびの縦パスを入れたのは、左サイドでオーバーラップしてきた松尾からパスを受けた右サイドバックの内田潤でした。そして、最後詰めて得点を挙げたのがボランチのマルシオ・リシャルデス。本来、このような相手のポジションチェンジに対して柔軟な対応が出来るのがゾーンディフェンスの強みのはずなんですけど、そのゾーンディフェンスもマークの受け渡しがうまく行かなければゾーンでもマンツーマンでもないものすごい中途半端なディフェンスになってしまいます。そしてまさにこの時の札幌は非常に中途半端なディフェンスでした。中に切れ込んでいった内田に元気がずっとマークについていっていながら、左サイドのスペースをケアしなければいけないはずの征也が松下のマークをするために中に絞ってきてしまい、結果ゾーンが大伍とかぶってしまっていました。そしてオーバーラップしてきた松尾にボールが渡った時点で、その松尾に征也だけじゃなくなぜか大伍までチェックに行ってしまっており、さらには松尾にパスが出た時点で内田のマークに付いていたはずの元気が彼のマークを捨ててゾーンに戻ってしまっているんですね。で、中に切れ込むと見せかけて征也と大伍を引きつけた松尾から再びパスを受けた内田は完全にフリーの状態で、マーカスと大伍の間のスペースをダイレクトで通されてしまっています。ゾーンディフェンスが機能していれば防げたかどうかは、そのダイレクトパスを受けた田中の位置は、去年から散々弱点とされてきた「4バックの選手と選手の間」でしたし、最後のマルシオ・リシャルデスのシュートの時はゾーンとかマンツーマンとか名たんていカゲマンとか関係なく完全にボールウォッチャーだったのでわかりませんけど、せめてオノレの縄張りくらいオノレで守れと言いたくもなります。恥ずかしいディフェンス禁止。

 で、とにかく一点を追う展開となってしまった札幌。幸い時間はまだほぼ1試合ぶんは残されているわけですから、気持ちを切り替えて早めに追いつくことが重要なんですが、追いつくどころか中盤で試合を作れず、可能性の少ないロングボールを前線に蹴っては跳ね返される有様。新潟の守備にスキがないというよりは攻撃の形にすらならないと言ったほうがよく、たとえれば賽の河原で小石の上にどう考えても無理そうなでかい石を積もうとして勝手に崩れて鬼の出る幕がない、といった感じ。中盤でゲームを作れない理由は、札幌のスタメンでただ1人と言っていいタメを作れるクライトンが前線にいるから、という理由がやっぱり大きいのでしょうね。何度も言っていますが彼は前を向いてボールを持ってなんぼの選手ですから、ボールを持って前を向けば相手の選手も怖いと思うのですよ。見た目も含めて。しかしFWだとどうしても後ろ向きでボールを受けることが多くなりますから、あまり相手に恐怖は与えられないですよね。見た目も含めて。
 その一方であまり守備が得意ではないため、中盤に置くと守備面でのデメリットが増える、という側面があり、それこそがクライトンをFWで使う理由なのでしょう。ただしそれもイーブンかリードしていることが前提であり、ビハインドの状況で攻撃面でのメリットを捨ててしまうのはやはりもったいない気がします。もちろん、焦って前がかりになって逆に追加点を許してしまうようでは本末転倒ではありますし、札幌得意の、というよりは唯一無二のストロングポイント、のび太でいえばあやとりにあたる「セットプレイ」であれば、クライトンのポジションがどこであろうとも関係ないわけですけど、いくら得意とはいってもさすがに百発百中とまではいきませんから、得点の確率を上げるためにはより多くのセットプレイのチャンスを得る必要があります。で、そのセットプレイを得るには当然相手ゴール近くまで攻め込まなければいけないのですが、そもそもそこまでボールを運べないので有効なセットプレイすら得ることが出来ません。追いつくことはおろか前半に打ったシュートはわずかに2本。そのうちの1本はダヴィのゴール至近距離でのシュートが新潟GK北野の身体に当たってしまうとても惜しいシュートではあったんですけど、どんなに惜しくても入らなければスナさんの大宇宙開発エビぞりシュートと同じです。実質何も出来なかったと言ってもいいでしょう。

 もともと札幌は相手を圧倒して力でねじ伏せるサッカーではありませんし、去年も勝った試合でも内容自体はむしろ良くない試合が多く、先制された試合でも相手の運動量が落ちてきた後半に一気に逆転、という試合も少なからずありました。しかし新潟が早い時間に先制し、かなり余裕を持って試合を進めることが出来ており、相手の運動量が落ちることもあまり期待出来そうになく、るで得点の予感がしない前半の内容のままでは逆転どころか追いつくことすら難しそうな感じでしたから、後半は多少なりともテコ入れをする必要があるでしょう。問題はそれをどのタイミングでどのように行うかですが…。後半12分に行われたテコ入れは、大伍を下げて鄭容臺を入れるというもの。いやまぁ確かに大伍は守備面ではあまり効いていたとは言えませんので、最終ラインでなんとかボール奪取をしているような状態から、もう一列前でボールを奪うことを期待しての容臺投入だとは思うんですけど、それなら元気をFWに挙げて前線からプレッシャーをかけていく方法も考えられたわけで、何となく腹が減ったことの解決策として「とりあえずそれを忘れるために寝てみました」という感じにも思えます。
 で、その6分後にようやく征也に替えて砂川を投入。ここからようやくサイドからの攻撃が形になってきます。サイドをえぐることができればコーナーキックを得られる機会も増えます。それはすなわち札幌にとっては得点チャンスが増えるということ。そして後半26分にその砂川の突破から得たコーナーキックから、箕輪が競り勝って落としたボールをダヴィが右脚で押し込んでようやく同点に追いつきました。
 これで遅まきながら札幌が勢いづくかと思われましたが、同点からわずか3分後、今度は新潟のコーナーキックからのクリアボールにダイレクトで合わせた内田のシュートがゴールポストに当たり、ちょうど跳ね返ったところにいたアレッサンドロが頭で押しこんで再び突き放されてしまいました。失点自体は特に札幌側のミスはなかったと思いますが、とにかくこの失点で札幌の「いけるかも」という目論見は完全に潰えてしまいました。
 その後西谷を入れるも一度止まった勢いを再び取り戻すことはできず、そのまま敗戦。この試合でイエローカードを受けたダヴィと元気は2人揃って次節出場停止。いろんなものを失った試合でした。

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