2009年Jリーグディビジョン2第15節
コンサドーレ札幌 3-0 FC岐阜
得点者:札幌/大ヒロ、ヤス、カズゥ
岐阜/なし
一時期は16位にまで落としながらも、チームの歯車がかみ合い始めてからじわじわと順位を上げてきたコンサドーレ札幌ですが、
歯車は一応噛み合ってはいるものの場合によって速くなったり遅くなったりとどうにも安定した動きはしていないようで、勝てばさらなる上位進出のチャンスがあった前節のアウェイ徳島ヴォルティス戦でも、常にリードを奪う展開ながら終盤2点のリードを追いつかれて痛恨の引き分けを喫してしまいました。今節はホームの札幌ドームに戻ってFC岐阜との対戦です。
ロアッソ熊本共にJ2に参入した昨季は札幌はちょっとJ1旅行に出ていたため、今季が初対戦となりますが、コンサドーレにとって岐阜は割と縁の浅からぬチーム。2006年にJリーグを目指して法人化されたFC岐阜は、これまで他のチームもやってきたように強化のために多くのJリーグ経験者を獲得してきました。その中には森山泰行、中尾康二、小島宏美、相川進也、田澤勇気といった元札幌の選手たちも含まれています。そのJリーグ経験者たちの活躍により2007年にJFLで3位に入りJリーグへの加盟が認められましたが、経営的な無理をしてまでJリーグを目指したツケは累積赤字という形になって現れ、昨季終了時点で約1億5千万の債務超過に陥っています。要するにかつてのコンサドーレ札幌と同じことをしてしまった、というわけですね。で、その経営基盤の立て直しを図るべく、昨季8月にJリーグから「派遣」されたのが、コンサドーレの運営会社であるHFCで取締役を務め、財務状況の改善に関わってきた「カドテツさん」こと門脇徹氏。そしてそのカドテツさんの施策なのかおそらくは人件費抑制のため、昨季オフには多くの主力選手との契約を更新せず、その代わりに11人もの新卒選手を獲得。要するにかつてのコンサドーレ札幌と同じことをした、というわけですね。
まぁそんな感じでチームが大きく若返ったわけですが、やはり経験の浅いチームの宿命なのか順位は前節時点で15位と下位に低迷。とはいえ、現時点で3勝もしてるならまだいいほうだと、かつて同じことをした年にJ2で年間5勝しかできず最下位に沈んだチームのサポーターは思うわけですが、それはさておき上位進出への仕切り直しとなるべきこの試合で札幌に求められるのは、きっちり勝点3をゲットすること。その上で可能であれば無失点に抑えられれば理想ですが、栃木戦でも触れた通り札幌は伝統的に初物が苦手ですし、ノブリン曰く「サッカーに関しては天才的」と評する#10片桐淳至をはじめとして前節ファジアーノ岡山戦でハットトリックを決めた西川優大、精度の高い左足を持つ高木和正などアタッカー陣には優秀な選手が揃っており、注意が必要です。ちなみにこの片桐に対するノブリンのコメントを聞いて「サッカーに関しては」の部分が妙に強調されている気がするのは自分がひねくれ者だからでしょうか。ひとまずはこれまで何度も見られたような、たとえばロングボールの処理を誤って決められるというようなおかしな失点の仕方さえしないことが重要です。
で、札幌のスタメンはボランチが宮澤裕樹から上里一将に戻った以外は前節と同じメンバー。開幕当初は試行錯誤をしていたノブリンですが、選手たちもノブリンサッカーに慣れてきたのか、ここに来てようやく軸となるメンツが固まったような感じです。メンツが固まれば後はそのコンビネーションを高めていくだけであり、そういう意味では伸びシロはまだまだあると言えると思いますが、ひとまず今のメンバーを中心にそれなりに機能するようになってきている、というのはある程度選手の自信になっているようで、この試合でも開始から圧倒的な札幌ペース。前半28分、相手陣内で得たFKを西嶋弘之が飛び出してきたGKの上から頭で決めて先制点をゲットすると、その後も危なげなく岐阜にほとんどチャンスを与えず前半を1-0で折り返します。
そして後半開始早々、左サイドでボールを拾った岡本賢明がドリブルで切れ込んで豪快に叩き込んで追加点を奪うと、後半20分にはカウンターからクライトンの絶妙な浮き球のパスに走り込んできた上里が右足でダメ押しとなる3点目を決めます。その後は疲れからか岐阜に攻め込まれ、片桐の直接フリーキックがゴールポストを叩くなど危ないシーンはあったものの、守備陣も集中力を切らすことなく相手を無失点に抑え、3-0で岐阜に快勝しました。
とまぁそんな感じで試合の流れをざっと追ったわけですが、本題はここから。この試合のポイントをいくつか挙げていくと、まずは2点目。オレの持っているサッカーメソッドには、「ストライカーは人でなしであれ」、「GKは飛び出たら味方を蹴り飛ばしてでもボールに触れ」、「ちょろい横パス禁止」などと極めて偏った教えがたくさん書いてあるのですが、その中のひとつに「サイドアタッカーは勝負してなんぼ」というのがあります。状況にもよりますけど距離を詰めればすぐにパスを選択するような選手は相手にとって怖くも何ともないわけですし、逆に勝負を仕掛ければ相手を揺さぶることができますし、ファウルをもらうこともできます。加えて縦に行ってクロスと中に切れ込んでシュートという2通りのパターンを持っていれば相手は「どっちかを切っとけばOK」というわけにも行きませんし、両方止めるためにもう1人マークに来ればそのぶん中の人数が減るわけで、そうなれば得点チャンスも増えることになります。立場は逆ですが甲府戦の「なんでかミツまで行っちゃった」パターンですね。去年はちょっと迷いがあるようだったヤスですが、セレッソの先制点もそうだったように、だいぶルーキーイヤーの積極性が戻ってきた感じですね。逆サイドの征也も、もともと抜ききらないでもいいクロスを上げられるのですから、あとは「中に切れ込んでシュート」のパターンをもう少し増やせば、センターバックとGKを除くとまだ征也だけ得点を取ってないという状態から抜け出せると思います。
次に、3点目の上里のゴール。あそこの位置に上里が走り込んできたことは特筆すべきだと思います。ボランチだろうがサイドバックだろうがチャンスとあらばゴール前に顔を出すというのは、現代サッカー、特に1トップの札幌においては重要なこと。かといって「ここは絶好のチャンスだぜ!」と相手ゴール前にみなぎった表情の荒谷僧正が突っ込んでこられても困るのですが、カウンターに入った時にカズゥがクライトンとほぼ同じ位置から長い距離を走っていったことであの得点が生まれたと言えると思います。まぁ珍しく右足で放ったシュートはぼてぼてでお世辞にもかっこいいシュートとは言えませんでしたが、オレの持っているサッカーメソッドには「入ったシュートがいいシュート」と書いてあります。要するに、どんなすごいシュートでも入らなければ得点にはならないし、逆に手以外のどの部位に当たったとしても、ゴールに入れば得点になるということですね。多分ですがこれまでの経験上、左足でジャストミートしてたら入らなかったような気もします。ちなみにオレの持っているサッカーメソッドは民明書房刊です。
ただまぁ、これで3試合連続3得点、負けなしを続けている第7節以降9試合で20得点の荒稼ぎを続けているわけですが、試合後のコメントでノブリンも触れているとおり、流れの中から相手を崩してのゴールは実はあまり多くなくて、半分以上がセットプレイかカウンターによるもの。まぁ実際この数字は札幌に限らず現代サッカーの全体的な傾向ですし、形はどうあれ結果的に得点が入ればそれに越したことはないのですが、指揮官としてはどんなアプローチでも点が取れるようにしたいのでしょうし、今現在得点者のポジションがまんべんなく散らばっており、「どこからでも点が取れる」ようにはなってきているのですから、それができるようになればこの先チームとして安定した戦いができるようになる、ということなのでしょう。
そして守備面ではまずは無失点で終えられたこと。まぁそうはいってもこれまでの試合と同じように後半リズムを崩すのは相変わらずで、実際には危ない場面がなかったわけではないのですが、それでもちゃんとやっていれば失点はある程度防げるんだ、という自信にはなったのではないかと思います。疲れてプレスがかかりにくくなってきた時にどういう対処をしていくかというのは課題かも知れませんが、結局のところ最後は戦術とか個人能力とかよりも強い気持ちがものをいうんだ、などとわかったようなわからないような感じでとにかく無失点はめでたいことです。加えて、その無失点試合を警告なしで乗り切ったことは評価されてもいいと思います。累積警告による出場停止もそうですが、何よりチームの総カード数を含む「反則ポイント」に応じて課される反則金がもったいないですからね。過去10シーズンで札幌が反則金を免れたのは2005年シーズンのたった1回のみで、10年間で800万円くらいの金額をJリーグにお布施してるのですよ。単位に直せば、1元気です。もちろん中にはしかたないカードもありますし、何でもないのにやたらめったらカード出す主審をなんとかしろという気もしますが、C3(異議)やC4(繰り返しの違反)はある程度避けられるカードだと思います。
まぁ何はともあれ、前節時点で6位の徳島ヴォルティスがベガルタ仙台に引き分け、5位の水戸ホーリーホックがセレッソ大阪に負けたので、この2チームを勝点で上回った札幌は5位にまで浮上しました。昇格圏内の3位仙台とはまだ勝点で7の差はありますが、遅ればせながら昇格レースに食い込んできました。今後もこのまま上位に食らいついていきたいものですね。