赤いシリーズ
2008年Jリーグディビジョン1第9節
浦和レッドダイヤモンズ 4-2 コンサドーレ札幌
得点者:札幌/砂川、柴田
浦和/阿部、闘莉王、エジミウソン×2
ホームで新潟を相手に痛い負けを喫してしまった札幌は、今節は中2日で強豪浦和レッズとのアウェイゲームです。お互いがJ2に所属してた2000年、未だ伝説と並び称される2000年7月29日の厚別での逆転劇を含む4度に渡る死闘を繰り返したことも今は昔。共にJ1に昇格したその後、わずか2年でJ2に降格してからは、財政難や不祥事などで観客動員数も減少、J2最下位も経験するなど低迷を存分に満喫した札幌とは対照的に、浦和は潤沢な資金を背景に多くの有力選手を獲得、2003年にナビスコカップを制覇すると、それ以降は2004年にステージ優勝(当時は2ステージ制)、2005年に天皇杯制覇、2006年は天皇杯連覇と待望のリーグ優勝、2007年はAFCチャンピオンズリーグ優勝と毎年のようにタイトルを獲得し続けています。ちなみに浦和が初タイトルをゲットした札幌がJ2優勝を果たした昨季のJ1王者・鹿島アントラーズは、札幌がJ2に降格した2002年以降あらゆるタイトルから見放されていましたが、浦和の場合は札幌が札幌が再びJ2を戦うことになった2003年を境に、まるで憑き物が落ちたかのような我が世の春です。まさにJリーグの藤原道長とでも言いましょうか、そんな浦和に比べれば我々なんてミッドガルのプレート下層の住民なわけですが、その浦和も怪我や病気には勝てないようで、この日のスターティングメンバーには永井雄一郎、田中達也、鈴木啓太、坪井慶介、ポンテ、三都主アレサンドロといった、レッズと言えばまず名前が思いつく選手たちがいません。しかし札幌も選手事情は似たようなもの、というよりは選手層の薄い札幌だけに状況は浦和以上に深刻で、特にFWはエースのダヴィが前節新潟戦での一発退場で2試合の出場停止中、中山元気も怪我、石井謙伍は大スランプ、ノナトに至ってはスランプというより腐乱中といったほうがよさげな感じ。今年度のFW登録の選手はあと宮澤裕樹と横野純貴のルーキーコンビしかおらず、さすがにこの状態で彼らを出すのは、学徒動員してザクで出撃させるようなもの。というわけで三浦監督の採った策は「いないならいないでいいや」というもので、メンバー表上の2トップはクライトンと西大伍という選手登録上はMFコンビ。
この日の試合会場である浦和のホームスタジアム・埼玉スタジアム2002では、札幌はかつて2004年の大宮アルディージャ戦で使用したことがありますが(その他にも西大伍と怪我で戦線離脱中の藤田征也が高円宮杯U-18の決勝戦で経験)、その時の観客数はわずか8,009人。この日の観客数は48,031人ですから、実に4万人以上の差があるわけで、もちろんこれだけの大観衆でプレイするのは札幌にとっては初めてのこと。選手たちにとってはこの大アウェイの中で平常心のプレイができるかどうかがひとつの鍵でした。右サイドバックに平岡ではなく池内を今季初めてスタメンで起用したのも、経験値を優先したからでしょう。が、むしろホームの浦和のほうがなんとなくやりにくそうです。現在首位の名古屋グランパスから勝点3差の3位につける浦和は、首位を伺うためにも勝利が欲しいところですし、ましてや相手は降格候補筆頭の札幌。「勝って当たり前」な空気に却って硬くなったのかも知れません。試合開始からパスを繋ごうとしては札幌にボールを奪われカウンターを許すというシーンが何度か続き、そして前半6分、中盤で坪内からのパスを受けた芳賀主将が、トラップの間際でボールをかっさらおうと襲撃してきた闘莉王をすんでの所で交わし、さらにそのルーズボールをスライディングで奪おうとした梅崎もぎりぎりのところで先に触って交わすという結果オーライドリブルを見せます。フリーで前を向いた芳賀は大伍とダイレクトでパスを繋ぎ、相手のラインの裏に飛び出した砂川へ浮き球のパス。このパスを受けた砂川が落ち着いてゴールを決め、なんと札幌が先制します。
しかし先制したとはいえ、札幌が浦和を相手に1点を守りきるような芸当ができるチームであるはずもないですから、ここからのポイントはこのリードを1分でも長く保ちつつ、いかに前に出てこざるを得ない浦和のスキを突いてのカウンターで追加点を奪うかです。で、その通り「やれば出来る子」大伍とクライトンを中心に先制後もカウンターからいい形を何度か作り出し、少なくとも大アウェイに萎縮している様子は、少なくともフィールドプレイヤーからは見られなかったのですが、ただ1人どうにもおかしかったのがGKぎーさん。ゴールエリアの近辺でフィールドプレイヤーたちがヘディングでぽんぽん争ってるのを温かい目で見守っていたり、新潟戦でもあったような柴田が呼んでいるのに出てくるのが遅れたり、普段からあまり前に出るタイプのキーパーではないことを差し引いても何となくおかしい。その不安が的中したのが前半の24分、阿部のミドルシュートをファンブル気味に後ろに反らしてしまい、あっさりと同点ゴールを許してしまいました。シュートに変な回転がかかっており、ぎーさんの手前でイレギュラーなバウンドをしていたのは確かなのですが、ぎーさんにしてはちょっとお粗末なプレイだったと言わざるを得ません。ああいう変態的なシュートは変態的なGK、つまり優也なら止めていたかも知れませんが、しかし優也だったらきっと別のところで面白いことをしでかしてたと思うので、そのあたりは微妙ですね。
そんなわけでリードが20分持たなかった札幌ですが、そのわずか1分後にセットプレイのチャンスからルーキー柴田がドンピシャのヘディングを決めあっさり突き放しに成功します。前半をこのまま折り返すことができれば勝利の目はぐっと近づく、と思っていたのですが、そのわずか3分後、今度は浦和のセットプレイから闘莉王に頭で決められ、またしてもあっさり同点に追いつかれてしまいました。まぁ相手をフリーにさせて決められたのならもったいないと思いますが、この場合は吉弘がちゃんとマークについてしっかり身体も寄せていたにもかかわらずゴールの隅に決められたもの。その前にも、オフサイドでノーゴールにはなったものの阿部からのフリーキックを高原に繋いだヘディングも頭1つ抜けてましたし、やっぱり闘莉王の強さは半端ないですね。
そんなわけで浦和のわずかなスキにつけいることはできたものの、つけいってもつけいっても赤い人、という感じで前半は同点のまま終了します。
ただまぁ、目論見が崩れたとはいえまだ同点。マンマークが基本の浦和のマークをうまくずらして、1点目のような形に持っていくことができれば、もしくはセットプレイ、できればペナルティエリア右手前の札幌(というかクライトン)が一番得意とする「聖域」でのフリーキックのチャンスを多く作れれば、後半も1点くらいなら取れるチャンスはあるはず。あとはそれまで同点のままどれだけ我慢ができるかというところだったのですが…後半が始まってわずか5分、右サイドから崩されフリーのエジミウソンにゴールを決められてしまいました。
一転して追う展開となった札幌ですが、わずか3日前に試合の半分以上の時間を10人で戦わざるを得なかった影響もあるのか、次第に相手のパス回しについて行けなくなり、反撃を試みるどころか防戦一方の展開になっていきます。それでも何度かゴール前まで迫るシーンも見せるのですが、攻撃参加を自重し始めた闘莉王を中心に守りに徹する浦和の壁をこじ開けることができず、逆に試合終了間際にはミスからカウンターを許し、再びフリーのエジミウソンに決められ4失点目を喫してジ・エンド。不利の予想される中2度リードを奪ったものの、結局は力負けとなってしまいました。
さて試合終了後、浦和のゴール裏に「札幌、お前はもう死んでいる」横断幕が登場。
もうずいぶんと時間が経っててご存じない方もいるでしょうからかいつまんで説明しますと、これはもともと札幌のサポーターが浦和を煽るために作ったもので、最初の文章は「田北 お前はもう死んでいる byエメルソン」というものでした。「田北」は当時浦和の正ゴールキーパーだった田北雄気(現横浜FCゴールキーパーコーチ)で、エメルソンは言うまでもなく当時の札幌のエースストライカー。で、それを見た浦和サポーターは当然のように激怒し、まぁいろいろあって結局その横断幕を浦和サポーターに渡すことで手打ちとなったのですが、その後この横断幕をゲットした浦和サポーターは、「田北」の部分を「洋平(当時札幌の守護神だったGK佐藤洋平)」に変えて、札幌戦のたびに持ってきていたというわけです(ちなみに「by エメルソン」の部分は、エメが札幌から川崎フロンターレを経て浦和に加入する以前からそのままでした)。そして2002年に札幌がJ2に降格して以降は浦和との対戦はなかったのですが、今回札幌がJ1に昇格して再び相まみえたこの試合でこの横断幕も再登場した、というわけです。要するに6年間もの間後生大事に取っておいてくれたってわけですね。今はもう札幌にいない「洋平」を何に変えるか考えて、多分誰も知らなかったから「札幌」にしちゃったんだと思いますが、現在のクラブとしての格から言えば、札幌なんて屁のつっぱりにもならないようなチームのサポーターが、この横断幕を出す日を心待ちにしていたんでしょうね。ちょっとうれしかったです。