2009年Jリーグディビジョン2第10節
横浜FC 0-1 コンサドーレ札幌
得点者:札幌/クライトン
横浜FC/いなかった
負けなしだった首位セレッソをホームで撃破し勢いに乗りたい札幌は、今節はアウェイで横浜FCとの対戦です。2006年に1試合平均失点0.67という堅い守備でJ2優勝を飾りJ1に昇格した横浜FCでしたが、J1では選手の大量入れ替えの影響などでその守備力もまったくといっていいほど通用せず、それまでコンサドーレ札幌が5年間保持していた史上最速降格記録を塗り替えてJ2に降格。J1で相当無理をした影響か、FW久保竜彦やMF奥大介らJ1のために獲得した選手たちだけでなく、GK菅野孝憲やMF内田智也といったJ2時代からチームを支え続けてきた選手たちも移籍してしまい、翌年のJ2でも序盤こそ上位をキープしていたものの、徐々に順位を下げていき終わってみれば10位と低迷。エリゼウやアンデルソンが抜けた一方でこれといった補強ができなかった今季はさらに状況は悪化し、第8節水戸ホーリーホック戦で勝利(1-0)を挙げるまで1勝もすることが出来ない状態でした。
ちなみに皆さんもご存じの通り、その横浜FCが破った史上最速降格記録は、その翌年に横浜FCと同じようなやり方でJ1に上がった
コンサドーレ札幌が、そのプライドに賭けてタイ記録で降格したのですが、「異次元の弱さ」の第一人者を別に自称はしていないけどけっこう他称されがちな札幌が持つ「J1経験チームでJ2で最下位になった唯一のチーム」という記録も脅かされつつあるのが今の横浜FCの状況です。そんな横浜FCとは過去2シーズンカテゴリが入れ替わっていたため3シーズンぶりの対戦となりますが、直接の対戦成績は実はあまり分が良くなく、過去の対戦成績は16試合で3勝7敗6分と、大きく負け越しています。
札幌は3試合連続ゴールで一気に得点ランキング2位に躍り出た紀梨乃が前節4枚目の警告を受けてしまい、この試合出場停止ということで、ノブリンはワントップにU-20日本代表候補の合宿から帰ってきたばかりの宮澤を起用。謙伍はワントップのタイプではないですし、かといって上原にしろ横野にしろスタメンを任せるレベルには至っていない、ということで要するに自動的に宮澤しかいないわけですけど、ワントップの役割は点を取ることだけではないですが、ここまで出場時間数の割に得点はもちろんシュートの数もFWとしては物足りないのも事実。昨年の名古屋グランパス戦での先制ミドルが示すとおりシュートのうまさはチームでもトップクラスなのですから、このあたりで奮起を期待したいところ。
さて、昨年にここニッパツ三ツ沢競技場で行われた横浜F・マリノス戦には諸事情で見に行けなかったため、サッカーの試合などでもない限り横浜にまで行くような用事がない自分がここに来るのは2006年10月18日のJ2第45節以来。約2年半ぶりに訪れた横浜駅は記憶の中のそれとはまったく様変わりしており、ただでさえ方向音痴な自分は改札を出た途端に自分の現在地を見失う有様。案内板を頼りにバスターミナルを探していたら、三ツ沢方面のバスが出ているのとは逆方向の側のバスターミナルについてしまい、涙目になりながら戻る羽目になるというアウェイの洗礼(※主に自分が悪い)を浴びつつ三ツ沢競技場に着いてみれば、ここは厚別ですかと思わせるほどのかなりの強風。今日はかなりセンシティブな試合になりそうだ、などとゴール裏メイトと話していたりしたのですが、もちろんそれが違う方面で現実になるとは、その時はつゆほども思っていなかったわけで…。
案の定ロングボールの行く先が全然読めないコンディションの中、開始からしばらくはお互いひとまず様子見的な展開が続いていましたが、そんなダレ気味な展開にカツを入れるように訪れた山場は前半の19分でした。突破してきたDF田中輝和を倒した西嶋がこの日2枚目のイエローカードで退場してしまいます。
この日の主審は家本政明審判員。件のゼロックス・スーパーカップに端を発する「無期限活動停止」から復帰して以来、最近では「以前に比べればマシになった」とは言われていますが、そのデビュー戦となった2003年4月9日のJ2リーグ第5節・大宮アルディージャ対コンサドーレ札幌(大宮公園サッカー場)で、前半36分に今野泰幸を一発退場させて以来日本各地で数々の「伝説」を作り上げ、各クラブのサポーターはもちろん選手や監督・スタッフまでもが不信感をあらわにしている人物。普通あれだけ批判を受ければ多少は自重しそうなものなのに、それでも未だに微塵も躊躇もせず「1、2、さぁ~ん」でカードを出すのは、たぶん「カードを出すのはカードに値するようなプレイをする選手が悪い」という考えなんだろうと思います。まぁそれは基本的には間違いではないのですが、だからといって悪即斬では世の中うまく回らないですし、そもそもイエローカードやレッドカードは、ラフプレイやルール違反を「抑止」するためのものであって、罰を与えることそのものを目的として存在するものではないはず。加えて家本主審の場合「疑わしきは罰せず」ではなく「疑わしきは罰する」タイプなのでいつまでもカードが減らないんでしょうが、実際問題この人はもうそういう人だとあきらめるほかないと思うので、田中の倒れ方がもう1枚出させて退場させようというこすいプレイに見えたような気がするのは気のせいだと思うにしても、西嶋自身脇が甘かったのかもしれません。まぁどうせ抗議したところで屍が増えるだけなので、あまり執拗な抗議をしなかったのは正解だと思いますが、とにかく残りの70分以上を10人で戦わなければいけなくなりました。
さて、単純に数的不利というのも痛いのですが、退場したのがよりによって西嶋であったことは相当痛かったのは間違いありません。こういう早い時間帯でDFが1人足りなくなった場合、普通は守備のバランスを取るためにFWを1枚外してDFを1枚入れるというのがセオリーなんですが、札幌に来てからのノブリンは開幕以来一貫してDF登録の選手をベンチに入れていません。その理由のひとつが守備的なポジションならどこでも出来る西嶋の存在があることは想像に難くないですし、加えて、西嶋はDFながらFWの宮澤よりもずっと多くのシュートを打っているセットプレイのターゲットマンでもあります。攻守両面で重要な選手なのがこの西嶋なのです。
ただ長いシーズンこういうこともあると思いますから、こういった緊急事態にノブリンがどういう手を打ってくるのか、宮澤を外して芳賀を入れ、大伍を左に回すのが無難な線かな、などと思っていたんですが、どっこいノブリンが採った策はその斜め上を行くものでした。システムはいじらず3バック…はいいんですが、ミツと晟桓の間にいるのは、西大伍じゃないですか。確かに大伍はFWからサイドバックまでどこでもできる、ある意味西嶋以上のユーティリティプレイヤーではありますが、さすがにその発想はなかった。そしてこういう時に重要なのが浮き足立たないことなんですが、ノブリンはすぐさま岡本に代えてベテラン砂川を投入。数的不利、加えて風下ということもあり、前半はただの1本すらシュートを打てないグダグダな内容だったものの、横浜FCも急造3バックの札幌を揺さぶろうという意図が見えなかったこともあって、ひとまずは無失点で前半を終えます。
前半と後半の間の15分のインターバルは、肉体的なリフレッシュを図ると同時に前半での問題点を再確認し、修正するための重要な時間です。前半うまく行かなかった時、監督は選手にアドバイスを与え、必要であれば選手の交代で局面の打開を図りますが、どういう施策をしたところで札幌が1人足りないのは変わらないわけで、折しも前半はアウェイ側ゴール裏からホーム側ゴール裏に向かって吹いていた風もメインスタンド側からバックスタンド側に流れるようになり、風上というアドバンテージもあまり期待できない感じでしたので、後半も前半と似たような展開が続くんだろうなぁと思っていました。しかしそんな中でも静かに闘志を燃やしていた男がいました。そう、「プレデター」クライトンです。前半、ダニルソンが倒されながらクライトンに繋いだ時にアドバンテージを取らずにプレイを止めるというひどいジャッジをされたのがよっぽどおかんむりだったのか、後半開始からエンジン全開で横浜FCに襲いかかります。そして前半3分、砂さんからのスローインを受けたクライトンがおもむろにゴール方向へ突進すると、そのままドリブルで持ち込んでシュートを決め、10人の札幌が先制しました。マークに来た横浜FCのDFをものともしない、というか引きずりながら突き進んでいくという、いろんな意味で反則的なクライトンのプレイに大爆笑。そうですね、初めてエメルソンを見た時のバカっ早ぷりと同じような感じです。
しかしその一方でワントップの宮澤は、この日も後半19分交代するまでやはりシュートはなし。まだハタチにもなっていない選手に多くの期待をしすぎるのも酷な話ですが、ここでキープしてくれればずいぶん後ろは楽になるというような場面でボールを抑えられるようにはなって欲しいと思いました。まぁ1人足りない中で時には最終ライン近くまで追っかけていったりとものすごく守備を頑張っている姿を見て、確かに量産型柳沢はもう間に合っているとは言いましたけど、だからといって中山元気マークIIになれとも言ってないと思いました。
さて、先制した後も札幌は基本守りに比重を置きながらも、虎視眈々とカウンターの機会をうかがいます。その中心となるのはもちろんあの男。もはや手がつけられないクライトンはその後も自陣でクリアボールを拾ったと思ったらそのまま相手選手を引き連れたまま60メートルあまりを独走して1人でシュートまで持っていったり、2人がかりで止めに来た横浜FCの選手(うち1人は容臺)を平気な顔で2人まとめて吹っ飛ばしたりとやりたい放題。いろんな意味での横綱プレイにサッカー見てて久しぶりに心底笑ったような気がします。
そして去年までの、いやつい最近までの札幌は、クライトンが上がっていってできたスペースを使われてピンチを招くことが多かったのですが、今の札幌にはダニルソンがいます。後半はノブリンが宮澤を外して芳賀を投入してサイドの強化を図ったことでクライトンが1人で前線に張ることが多かったのですが、その1人足りないぶんのスペースも含めてうまく埋めているだけでなく、オノレの縄張りに入って来ようものならあっという間に忍び寄ってがぶりと噛みついてきます。おまけにその縄張りも無闇に広いと来れば、横浜FCの選手がダニルソンを怖れてミッドフィールドを使わなくなるのもむべなるかな。だいぶ日本のサッカー(というかJ2)に慣れてきたようですし、今後も期待できるプレイヤーの1人ですね。もっとも、まだまだ雑なプレイも多いですから、現時点でも「高機動型ビジュ」のレベルではありますが、高機動なビジュってだけでも既に人類の範囲を超えているような気がしないでもありません。これからどうなるのかしら~(CV:水橋かおり)。
しかしさすがに後半も半分を過ぎたあたりから札幌の選手の運動量も目に見えて落ちていきます。カウンターを仕掛けられる体力もほとんどなくなり、仕掛けたとしてもシュートを打てる体力はとっくになく、クライトンのキープ力だけが頼りといった状況です。若い選手が多い札幌ですが、それでもこれだけの時間を10人でプレイするのはさすがに厳しかった模様。その割には、アディショナルタイムにドリブルでカウンターを仕掛けてシュートまで持っていったのがクライトンさん(31歳)と砂川誠さん(31歳)だったりしますけど。
それでも疲れた身体にムチを打ってゴールを守り続ける札幌イレブン…いやテン。横浜FCの樋口監督が札幌にとって最もいやな存在だったアツを外して御給を投入してパワープレイを仕掛けてくれたことが却って幸いし、ロングボールも晟桓やミツ、大伍らの身体を張ったプレイや荒谷僧正の落ち着いたプレイでゴールを許さず。昨年から続いていた連続失点試合を10人で止め、3連勝を飾ったのでした。久しぶりに「泣くと強いんだゾ」チームの本領発揮といったところでしょうか。ロアッソ熊本戦は泣くヒマもなかったですからね。