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2011年1月13日

移籍にまつわるエトセトラ

 コメントにてご質問をいただいてたので回答しようかと思ったのですが、思いの外長くなってしまいましたので、別エントリとして書き出そうと思います。年が明けてしばらく経ちますが、チームに特に大きな動きはなくこれといったネタがないので、「どうせなら更新扱いにしてしまおう」なんて思ったわけではありませんよ?
 まぁ偉そうに回答だなんて、なんだか上から目線のてんこ盛り、んでんでんでって感じですけど、実際のところ自分もクラブの中の人でもリーグの中の人でもないですから、詳しい部分まではわかりませんし、ひょっとしたら間違ってる可能性もなきにしもあらず、というかたぶん的外れなこと言ってそうな気もしますが。

> コンサは若手の有望な選手に複数年契約をしています。
> 複数年契約を設定すると言うことは、選手を拘束するわけですから、
> 契約金というのは、普通の年俸以上にかかるんですよね?
> それから例えば上里との契約が来季までだとすると、来季は移籍金0円になってしまいますよね。
> これをレンタルの状態で契約更新ということはできるのでしょうか?

 まず、JリーグにおいてはNPB(プロ野球)のような「契約金」という制度はありません。「支度金」という制度はありますが、それはあくまで新人選手に対するものですし、その額も最大500万円までと定められています。なので、契約金はかかりません。
 そもそも「複数年契約を設定」は「選手を拘束する」ということとイコールではありませんよ。ひとくちに契約といってもいろいろな種類があるのですが、いずれの場合においても契約は締結した時点で「双方が」その内容を履行する義務を負います。それに違反した場合は法的措置を含むペナルティが課せられますので、契約の上では互いに対等です(契約内容そのものが対等じゃない場合はあるでしょうが)。契約期間に絞って話をすれば、複数年契約であっても単年契約であっても、その間契約に拘束されるのは選手もクラブも同じです。早い話、選手は契約を無視して勝手にチームを辞め(て他のクラブに移籍す)ることはできないし、逆にクラブは契約を無視して勝手に選手をクビにすることもできないわけです。
 ただし、多くの場合契約書には「契約を解除できる条件」というのが入っているです。選手とクラブの個別の契約内容は知る由もありませんが、日本サッカー協会から公開されているプロサッカー選手用の「統一契約書」にも、クラブ側、選手側どちらからも契約を解除できる条件が記されています。ただしこれは犯罪や給料の未払いなど、一方に著しい背信行為があった場合などに限られるものですので、おそらくその他に個別で一方の都合による契約解除の際の違約金を設定しているものと思われます。要するに、「この契約を解除するにはいくらいくら必要ですよ」というものですね。これは契約期間中に選手が「もうこんなチーム出て行ってやる!」という場合ももちろんそうですが、クラブが「キミ、使えないからもう来なくていいよ」なんて場合にも発生します。まぁ契約内容に「選手は○○円払わないと辞められないけど、クラブはいつでも無条件この契約を解除できますよ」などといった条項があれば別ですが、前述の通り契約というのは両者の合意があって初めて成立するものですから、そんな契約書に選手が同意するとは思えませんしね。
 ただ逆にいえばこれは「所定の金額を払えば(まぁ実際はそれだけではないでしょうが)期間中であっても契約を解除できますよ」ってことです。たいていの場合、それは選手個人ではとても払える金額ではないでしょうから、違約金は移籍先のチームが負担することになります。移籍金が撤廃された現在はこの違約金が事実上の移籍金となっており、クラブ側は複数年契約を結ぶことによって、選手の引き抜き防止、あるいは引き抜きに遭った場合でも金銭的補償が得られるようにプロテクトをかけるわけです。まぁ前述の通りそれはクラブ側も契約期間内はその選手を雇い続けなければならず、それがチーム編成や財政的な枷となることもありますから、メリットばかりというわけでもないのですけどね。

 そして「レンタルの状態で契約更新が出来るか?」というご質問については、おそらく上里がレンタル期間終了後に札幌に復帰、身も蓋もない言い方をすれば「今季終了後にFC東京にイラネと言われる」というパターン以外での話だと思いますが、それについてはできるともできないとも言えません。保有権という概念があった頃はそういう形態は割と珍しくもなかったと思いますが(俺王様とか)、今は保有権も撤廃されていますので、純粋に契約上での話になるでしょう。長々と書いたとおり、契約は双方の合意があって成り立つものですので、クラブ側に契約更新の意志があったとしても、選手の側が「よそ行くので契約更新はしません」と言えばそれまでで、契約期間が終了すればクラブ側は選手を束縛することはできません。徳島ヴォルティスに移籍した西嶋弘之がその例ですね。逆に双方の合意さえあれば、レンタル中に契約期間が満了したとしても、新たな契約を結び直した上でレンタル延長というのはできると思います。ただ選手にはそうすることによるメリットがほとんどないですから、実際問題としてよっぽどのことがない限りは可能性は薄いでしょう。移籍の場合はさらに選手、移籍元チーム、移籍先チームと三者の思惑が一致する必要がありますし。「契約延長の上、レンタル」ってパターンがあるとしたら、上位カテゴリのチームが出番の少ない若手に下位カテゴリのチームで実戦経験を積ませるために行う、「武者修行」的な意味合いの移籍くらいでしょう。当然ながら、今季は同じカテゴリとはいえ、「FC東京なんてコンサドーレ札幌よりも格下だぜ!」なんてどんなに頭のおかしいオレでも言えるセリフではないですから、上里の例には当てはまらないですね。関係ないですけど、「契約延長の上、レンタル」と書くと、「市中引廻の上、獄門」みたいな感じですね。ちなみに「獄門」は晒し首のことで、「梟首」とも呼ばれるそうです。フクロウをモチーフにする札幌とは縁がありそうですね(ありません)。

 以上、延々と書き連ねてしまいましたが、最初に書いたとおりハンパな知識でものを言ってる可能性もありますので、もし間違いがあったら遠慮なくご指摘いただけるとありがたいです。

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コメント (2)

お玉:

大変丁寧なご説明に感謝します。そうなっているのかと初めて知ることが多くて私のあまりの無知ぶりにちょっとショックでした。

保有権がなくなったということは、完全移籍で獲得したとしても複数年契約でも結ばない限りは安心できないということですね。完全移籍の意味が軽くなった気がします。これは弱いチームにとっては、損なシステムといえるのでしょうね。

遅くなりましたが、今年もよろしくお願いします。また楽しく読ませていただきます。

choo :

オファーが競合して、マネーゲームになってしまえば確かに弱い(お金がない)チームにとっては不利なシステムと言えますが、ただ契約満了であればいかなる選手でも移籍金なしで獲得できるというのは、弱いチームでも中堅クラスの選手を獲ることができるようになってもいます。保有権があった頃は、お金のないチームはレンタル料を払って借りてくるか、それすらもなければ移籍金の発生しないベテラン選手や、戦力外の選手くらいしか選択肢がなかったわけですからね。
「獲られるリスク」があると同時に「獲れるチャンス」も増えていますので、あながち悪いことでもないように思います。内村なんてそうじゃなかったらたぶん獲れなかったと思いますし。

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