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2009年5月 アーカイブ

2009年5月 2日

負けなかったことだけが救い

2009年Jリーグディビジョン2第12節
アビスパ福岡 0-0 コンサドーレ札幌
得点者:札幌/ない
     福岡/ない

 ダニルソンへのレッドカードについては文句は言いません。たとえ相手が触っただけで波動拳でも食らったかのように倒れたとしても、審判の目の前で手を出しちまったのですからしかたないでしょう。ただ、そもそもダニルソンがマジギレした理由である中払が大伍の顔を踏んだことについては、あれ間違いなくわざとですよね。スカパー!のアナウンサーも解説も「中払がすぐに走り出したことで偶然当たってしまった」みたいに言ってましたけど、いいわけとしてはいくら何でも苦しいですよね。というか、相手を避けようとすれば自分のほうが怪我をしてしまうというような状況なら別ですが、あのシーンはどう見てもそうじゃなかったですし、故意じゃなくても相手の顔に膝を入れていい理由がどこにあるというのですか。それに、あの選手が今までどういうことをやってきたか知っている人ならそんな理由は戯れ言に聞こえませんし、実況の後藤アナはともかく、長くアビスパを見てきた解説のサカクラ氏がそれを知らないはずはないでしょうに。

 基本的にサッカー選手で嫌いな人は滅多にいないんですが、今まで見てきた中で3人だけ心底嫌いな選手がいます。そのうち2人が「大介」という名前なのはたぶん偶然でしょうけど。

 というわけですみません、怒り心頭でろくにレポートも書けないと思いますので今日はこの辺で。

2009年5月 7日

逆転劇

2009年Jリーグディビジョン2第13節
コンサドーレ札幌 3-2 栃木SC
得点者:札幌/宮澤、上原、クライトン
     栃木/河原、稲葉

 前節10人になりながらもアウェイでスコアレスドローとしたコンサドーレ札幌は、今節は札幌ドームに戻って栃木SCを迎え撃ちます。今季からの新規参入3チームのうちの1つである栃木SCは、前身の栃木教員サッカー部の設立が1953年と歴史自体は古いものの、Jリーグへの準加盟は2007年とごく最近で、2008年にJFLで2位となり晴れてJ2への参入となりました。J2で戦うため選手の大量入れ替えを行ったものの、前節終了時点で1勝4分7敗で17位と低迷。その最も大きな要因が深刻な得点力不足。チーム総失点16は18チーム中11位タイ、上位にいる水戸ホーリーホックと同じですからそんなに悪い数字ではないのですけど、チーム総得点の6点はリーグワースト、さらに無得点試合も12試合で9試合ととにかく点が取れないことに尽きるでしょう。
 逆に札幌はここまでの12試合を半分で割ると、開幕直後の6試合ではチーム総得点が4点と見事な豆鉄砲っぷりを発揮していた得点力が、ここ6試合では11得点と倍以上となっており、その内訳も紀梨乃4点、岡本賢明2点、クライトン2点、西嶋弘之1点、ダニルソン1点、宮澤裕樹1点と割とまんべんなく点を取っています。何が起こったんだと心配になる豹変っぷりですが、シュート数を比べると前6試合が1試合平均10.2本、後6試合が同じく10.5本とほとんど変わっていないので、単に「決めるべき時に決めることができるようになった」ということでしょう。失点についても前者が6試合で10失点、後者がその半分の5失点とだいぶ良くなってきてはいるみたいですが、さりとて愛媛FC戦では3点取ってから2点取られたりと崩れる時はあっさり崩れるのはあまり変わってないみたいですから、そういう意味では得点力に劣る栃木に2点取られ、その後3点取って逆転するというのもまぁ今の札幌らしいといえば札幌らしいと言えなくもないんですけど、反面、劇的な勝利だったとはいえ、いまいち評価に苦しむ試合だったとも言えます。理想を言うならば、札幌がJ1昇格を目標としているチームである以上、今季からの参入組を相手にしたホームゲームであれば、危なげなく勝利を手にしていなければいけない試合でしたよね。
 まぁそうはいっても、コンサドーレ札幌は伝統的に「初物」が苦手なチーム。1999年の2部制導入より後にJリーグに参入したチームは今季の3チームを含めて10チームありますが、この試合前の時点で未対戦のFC岐阜と栃木を除く8チームとの初対戦時の成績は、水戸ホーリーホック(○2-0)、横浜FC(●1-3)、ザスパ草津(○4-1)、徳島ヴォルティス(△1-1)、愛媛FC(●1-2)、ファジアーノ岡山(△1-1)、ロアッソ熊本(●0-4)、カターレ富山(△1-1)と、2勝3敗3分。ちなみに昇格を争うライバルチームはどうなのかというと、ベガルタ仙台が4勝2敗3分(富山とは未対戦)、セレッソ大阪が7勝3分、湘南ベルマーレ8勝1分(富山とは未対戦)と、負け越してるのは札幌だけ。対戦時期に違いがあるので一概には比較できませんけど、正直、しょぼい結果です。
 そしてもうひとつ札幌の伝統として「先行逃げ切り」タイプであることが挙げられます。サッカーという競技は全般的に先制したチームの勝率が高い、つまり先制されたチームは不利となるものなのですが、札幌の場合特にその傾向が強いのか、2点のビハインドをひっくり返して勝った試合は、2006年11月26日のJ2第51節・対柏レイソル戦が最後(ちなみにその時の柏の監督はノブリンでした)。そんな札幌が、初対戦の栃木を相手に後半21分の段階で2点差をつけられてから逆転したのですから、札幌にとっては大きな自信になるでしょう。確かに横綱相撲とはいきませんでしたが、全盛期の大徹みたいなうっちゃりを見せた、という意味では強さを見せたと言えるかもしれません。もっとも、大徹の最高位は小結でしたけど。欲を言えばきりがないので、現時点ではチームを成熟させていく段階でこうしてドラマチックな試合でしぶとく勝点をゲットし続けるのも悪くないかもしれないですね。

 さて試合ですが、札幌は前節1発レッドを食らって退場したダニルソンが出場停止。通常あのような行為での1発退場の場合、通常の1試合に加えて乱暴行為でのボーナスポイントが付いて何とお得な2試合以上の停止になることが多いのですが、ダニルソンの出場停止は1試合でした。まぁあの程度で2試合も3試合も停止させてたらJリーグにリアクション芸人が増えるだけで日本サッカー界にとって何もいいことないですから妥当な判断だとは思いますが、それはさておき、この試合での注目はダニルソンの代わりのボランチに誰が入るのかということ。今までの例で言えばウエスターさん…いや西大伍が入るかと思われましたが、ノブリンは愛媛FC戦でそれなりにいい感じだった宮澤を再びボランチで起用。そして両サイドバックの左右を入れ替え、今まで左だった西嶋を右に、右だった大伍を左で起用してきました。まぁ確かに西嶋の左サイドバックは右脚に持ち替えてクロスを入れることが多いのに対し、愛媛FC戦で左サイドバックをやってた時の大伍は普通に左足でいいクロス入れてましたからね。「良さそうだったらなんぼでもやってみる」というノブリンらしい采配。

 しかしながら、そういった選手起用以前にやはり連戦の疲れかいまいち札幌の選手にキレがなく、ボールこそ支配しているものの高い集中力で守る栃木のディフェンスを崩すことができません。栃木の守り方はいたってシンプルで、クライトンにボールが入ったら2~3人がかりでプレスをかけて自由にさせないことが第一、サイドに振られたら中を固めるという感じ。まぁ札幌と対戦するチームはだいたいそんな感じの守り方をすることが多いのですけど、悪い時の札幌はクライトンに預けっぱなしで「あとなんとかしてください」ということが多く、そうなるとクライトンを封じられると手詰まりになってしまいます。加えていい時なら得意の横綱プレイでなんとかしてしまうクライトンも調子はあまり良くないようで、なんとかキープしようとしているうちにゴール前を固められ、結局入る見込みのないミドルシュートを打たされるシーンが目に付きます。攻める札幌に対して身体を張って守る栃木と、サッカーとしては見応えのある試合ではありましたが、札幌サポーターとしてはまんじりともだんじりとも池尻大橋ともしない展開のまま前半は両チームとも得点なく終了。

 後半、さすがに栃木の選手たちも前半から飛ばしていたせいか動きが落ちてきて中盤のプレッシャーが緩くなってきたこともあり、札幌が立て続けに惜しいチャンスを作り出すようになります。開始直後から栃木陣内深くまで景気よく攻め込みますが、やはりポストに阻まれたりキーパーの正面だったりとチャンスをモノにできず。こうなってくるとこれまでの試合同様、チャンスを逃し続けているうちに相手にペースを握られ決められるパターンが頭をよぎります。点を取りたいノブリンは後半15分に岡本を外して砂川を投入。それと同時に前線の駒を増やすためにボランチに入っていた宮澤をトップに上げ2トップにし、空いたボランチには左サイドバックの大伍をボランチに起き、DFラインは晟桓、吉弘、西嶋の3バックに。いつもながらあらゆる可能性とリスクマネジメントを最大限に考慮した上での用兵にも思えるし、勝負師のカンに裏付けされた単なる思いつきにも思えるノブリンの素敵すぎる采配は結果的に裏目に出てしまい、この直後にリスタートからのロングボールの競り合いからのこぼれ球をパンチじゃないほうの佐藤に折り返され、左サイドからのクロスを奥さんが風俗嬢ではないほうの河原に押し込まれてしまいます。さらにその5分後にはロングボールの処理を晟桓がミスしてしまい、このボールを奪った佐藤がシュート。GK荒谷僧正がセーブするものの、このこぼれ球を札幌ドームのファンがジャンプしないほうの稲葉に押し込まれて2点目を奪われてしまいました。
 あっという間に2点のビハインドを負ってしまった札幌ですが、ここから反撃が始まります。後半29分、相手ゴールラインギリギリのところで大伍がドリブルから折り返したボールを、フリーで待ち構えていた宮澤が落ち着いて左足で押し込むと、その9分後に交代出場のメジャーリーガーじゃないほうの上原が西嶋からのクロスを見事なヘディングで突き刺します。ルーキーのプロ初ゴールで同点に追いついた札幌はさらに調子に乗りまくりで、同点ゴールからさらに5分後、今度は砂川のクロスにクライトンが右足で合わせて逆転に成功しました。自分から殴らせたくせに既に体力の限界を超え戦意の喪失しかけている相手を笑いながらタコ殴りにするかのごとき怒濤の攻撃で15分間で3得点を挙げた札幌がそのまま逃げ切りゴールデンウィーク連戦を3勝1分で乗り切りました。

2009年5月12日

負けなかったけど

2009年Jリーグディビジョン2第14節
徳島ヴォルティス 3-3 コンサドーレ札幌
得点者:札幌/西、紀梨乃x2
     徳島/徳重、菅原、登尾

 前節栃木SCを決まり手・うっちゃりで下したコンサドーレ札幌は、アウェイで徳島ヴォルティスとの対戦です。Jリーグに参入してから今季で5年目を迎える徳島ヴォルティスは、参入初年度の2005年こそ9位と健闘したものの、その後チームは低迷。2006年からは3年連続最下位。今季最下位ということになれば1999年から2001年までのヴァンフォーレ甲府を超える不名誉な新記録を作ってしまいます。さすがにそれはまずいと思ったか、今季はチームの半分以上の選手が入れ替わる大補強を敢行。そして出来上がったチームに徳重隆明、倉貫一毅、米田兼一郎、六車拓也、登尾顕徳、上野秀章といった元京都の選手がやたらと多いのは、昨季から指揮を執る美濃部直彦監督が長く京都で指導をしていたためでしょうが、それにしても徳重、倉貫、米田に加えて三田光、三木隆司、羽地登志晃といったメンツが名を連ねるスタメンを見ると、なんとなく4~5年前のJ2オールスターという印象を受けますね。しかしさすがに経験豊かな選手が揃っているだけあって開幕から好調を維持、前節終了時点で6勝4敗3分の勝点21で6位につけています。

 で、その徳島と同勝点ながら得失点の差で7位につけているコンサドーレ札幌にとっては、この試合で徳島を倒せば順位が入れ替わるだけでなく、前日に5位の水戸ホーリーホックが首位湘南ベルマーレに1-5で大敗しているため、さらに得失点差で水戸を上回り5位にまで順位を上げることができます。前節出場停止だったダニルソンも戻り、久しぶりにベストなメンバーが組める状況になっていただけに、ここで勝っておけばさらに勢いに乗れると思いましたし、前半終了時点ではまったくもって予定通りだったんですけどね。引き分けで終わるなんてつゆほども思いませんでした。

 というわけで試合についてですが、開幕以来スタメンを続けてきた主将の上里一将が控えに回り、宮澤とダニルソンのコンビとなった以外は前節と同じメンバー。カズゥはどうやら週中の練習でノブリンを怒らせてしまったようですが、それはさておきノブリンの中ではすっかりFWの2人目と同時にボランチの3人目となった感のある宮澤くん。この状況でも芳賀をボランチで使わないことからも、ノブリンがこのポジションに何を求めているのかは見えますが、視野も広いしボールを持った時の落ち着きもあるので、なんのかの言って宮澤はボランチ向きではあるんでしょうね。その宮澤含めた攻撃陣が機能し、前半はほぼ圧倒的に札幌が試合を支配。相変わらず攻めの中心がクライトンであることは間違いなく、徳島もまずクライトンを止めに入るのですが、マンツーマンでクライトンを抑えきれる選手は少なくともJ2にはいませんし、加えて最近のクライトンは自らが厳しいマークを受けることを承知の上で、2~3人を引き連れて展開するようになり、その結果サイドチェンジなどが有効に作用するようになっています。細かいパス回しがほとんどだったヤンツー時代と、ロングボールでの大きな展開がほとんどだった三浦監督時代を経て、ようやく局面局面において細かいパス回しと大きな展開の使い分けができるようになりましたね。なんというかまぁ、感慨深いですね。創設から13年経ってようやく普通のチームになったとは極力考えない方向で。
 いつ点が入ってもおかしくない中、前半18分にコーナーキックから西大伍が何となく池内友彦を彷彿とさせるマークの外し方でヘディングシュートを決め注文通りに先制点をゲットすると、そのわずか1分後にはカウンターから紀梨乃が抜け出して、飛び出してきたGKまで交わして冷静に決めてあっという間に2点のリードをゲット。その後も徳島につけいる隙すら与えず、前半は2-0で終了します。ほんと、この時点では何の問題もない試合内容だったんですけどね。

 後半、攻めるしかない徳島は右のサイドバックを寄り攻撃的な麦田和志に代えて打開を図ります。この麦田という選手、「燃えるお兄さん」に出てきてそうな顔をしてなかなかにスピードもある好選手です。いや顔は関係ないですけど、この麦田とマッチアップすることになった大伍が後手に回り、徳島にペースを握られてしまいます。そして後半3分、その大伍が徳島FW佐藤をペナルティエリアの中で後ろから倒してしまいPKを献上。このPKを徳重に決められ1点差に追いつかれてしまいます。PKの判定はちょっと厳しかったとはいえ、先制点のマークの外し方が池内っぽかった大伍ですが、得点は取るけど失点の原因にもなるあたりも池内が乗り移ったかのようです。
 2-0から2-1になって俄然勢いづく徳島ですが、札幌もがっくり来るかと思いきや、同点にされてからわずか5分後の後半9分、ここ最近はポストプレイもうまくなってきた紀梨乃が、センターサークルの中で落としたボールを宮澤がダイレクトでクライトンにパス、このボールをクライトンがダイレクトで送ったボールに、走り出していた紀梨乃が自慢のスピードで相手を振り切り、そのまま右足で決め3点目をゲットし、再び2点差に突き放しました。
 1点差に詰め寄りさあ俺たちの戦いはこれからだ、というタイミングで再び2点差にされれば、たいていのチームはがっくり来るものです。しかしさすがに上位にいるだけあって徳島も下を向いたりはしませんでした。さらに追加点を取ったとはいえ、やはり連戦と移動の疲れはあったのか、後半からわずかに出足が遅くなってきており、明らかに札幌のプレスが効かなくなってきています。プレスをかけて囲い込んでボールを奪うのが基本線のやり方だと、そのプレスがかかりにくくなると、ボールを奪うためには余計に走らないといけなくなります。余計に走ればそのぶん疲労が増し、疲労が増せば運動量も落ち、運動量が落ちればプレスもかかりにくくなり、プレスがかからなければさらにボールを追っかける時間が長くなるという悪循環を引き起こします。再び2点のリードを得たものの、前半のサッカーは見る影もなくペースとしては相変わらず徳島。さらに前半で足を痛めていたダニルソンを引っ込めざるを得なくなったことも災いし、攻撃的な選手を次々と投入する徳島に押される一方となってきます。やばいな、という空気が立ちこめてしばらく経った後半29分、芳賀を入れて強化したはずの右サイドを破られ、どフリーの菅原(室蘭大谷高校出身)に頭で決められると、もう徳島の勢いを食い止めることができず、そのわずか3分後にはコーナーキックから登尾に頭で決められてついに同点とされてしまいます。ここしばらくは割と安定していた荒谷僧正が、まるで優也が乗り移ったかのような軽快な飛び出し失敗を見せたわけですが、登尾には一応DFが身体を寄せていましたから、あそこは別段無理してはじきに行く必要はなかったと思うんですが、ああいうプレイが出てしまうのもチーム的に追い詰められていたということなんでしょうね。
 その後札幌もなんとかサイドの突き放しにかかろうとはするものの、選手たちは足かせでもはめられたかのように動きが重く、逆にノブリンが「3-4にされてもおかしくはなかった」というように、セカンドボールもほとんど相手に抑えられる有様で、大西主審が試合終了のホイッスルを鳴らした瞬間、引き分けて悔しいよりもホッとしたというのが正直なところ。

 さてどうでもいい話をすると、実はここポカリスエットスタジアムでの札幌は、鳴門海峡の渦潮が幻夢界を発生させているためなのか、ここでの徳島対札幌戦は必ずドローになるようです。2005年の初対戦で試合終了間際に追いつかれドローとなった試合を皮切りに、その年の2回目のアウェイ戦でも1-1のドロー。翌2006年も2試合とも0-0でした。2007年は1戦目に3-0で勝ってようやく解呪に成功したと思ったら、次のアウェイ戦ではきっちり0-3で負けたという事実もあります。つじつま合わせにもほどがあるってもんです。そう考えればこの結果も幻夢界のせいなのかも知れませんよ。大谷地神社でお祓いしたほうがいいかもしれませんね。
 まぁそんなオカルトチックなことを本気で信じているわけではないのですが、2点のリードを追いつかれたことも今のチームの実力なんでしょう。ただしそれと同時に、ここ6試合は10人となった横浜FC戦とアビスパ福岡戦の2試合以外は全ての試合で3点以上取っていること、その横浜FC戦と福岡戦は無失点に抑えていることもまた実力と言えると思います。まぁ実力あるなら退場せんでも0点に抑えてくれという気もしますが、今はまだそういった「強さと脆さ」が同居しているのがコンサドーレ札幌というチームなのだと思います。そうですね。飛行機に例えるなら、零式艦上戦闘機です。あ、そう考えるとちょっとかっこいい。

2009年5月18日

5位浮上

2009年Jリーグディビジョン2第15節
コンサドーレ札幌 3-0 FC岐阜
得点者:札幌/大ヒロ、ヤス、カズゥ
     岐阜/なし

 一時期は16位にまで落としながらも、チームの歯車がかみ合い始めてからじわじわと順位を上げてきたコンサドーレ札幌ですが、
歯車は一応噛み合ってはいるものの場合によって速くなったり遅くなったりとどうにも安定した動きはしていないようで、勝てばさらなる上位進出のチャンスがあった前節のアウェイ徳島ヴォルティス戦でも、常にリードを奪う展開ながら終盤2点のリードを追いつかれて痛恨の引き分けを喫してしまいました。今節はホームの札幌ドームに戻ってFC岐阜との対戦です。
 ロアッソ熊本共にJ2に参入した昨季は札幌はちょっとJ1旅行に出ていたため、今季が初対戦となりますが、コンサドーレにとって岐阜は割と縁の浅からぬチーム。2006年にJリーグを目指して法人化されたFC岐阜は、これまで他のチームもやってきたように強化のために多くのJリーグ経験者を獲得してきました。その中には森山泰行、中尾康二、小島宏美、相川進也、田澤勇気といった元札幌の選手たちも含まれています。そのJリーグ経験者たちの活躍により2007年にJFLで3位に入りJリーグへの加盟が認められましたが、経営的な無理をしてまでJリーグを目指したツケは累積赤字という形になって現れ、昨季終了時点で約1億5千万の債務超過に陥っています。要するにかつてのコンサドーレ札幌と同じことをしてしまった、というわけですね。で、その経営基盤の立て直しを図るべく、昨季8月にJリーグから「派遣」されたのが、コンサドーレの運営会社であるHFCで取締役を務め、財務状況の改善に関わってきた「カドテツさん」こと門脇徹氏。そしてそのカドテツさんの施策なのかおそらくは人件費抑制のため、昨季オフには多くの主力選手との契約を更新せず、その代わりに11人もの新卒選手を獲得。要するにかつてのコンサドーレ札幌と同じことをした、というわけですね。
 まぁそんな感じでチームが大きく若返ったわけですが、やはり経験の浅いチームの宿命なのか順位は前節時点で15位と下位に低迷。とはいえ、現時点で3勝もしてるならまだいいほうだと、かつて同じことをした年にJ2で年間5勝しかできず最下位に沈んだチームのサポーターは思うわけですが、それはさておき上位進出への仕切り直しとなるべきこの試合で札幌に求められるのは、きっちり勝点3をゲットすること。その上で可能であれば無失点に抑えられれば理想ですが、栃木戦でも触れた通り札幌は伝統的に初物が苦手ですし、ノブリン曰く「サッカーに関しては天才的」と評する#10片桐淳至をはじめとして前節ファジアーノ岡山戦でハットトリックを決めた西川優大、精度の高い左足を持つ高木和正などアタッカー陣には優秀な選手が揃っており、注意が必要です。ちなみにこの片桐に対するノブリンのコメントを聞いて「サッカーに関しては」の部分が妙に強調されている気がするのは自分がひねくれ者だからでしょうか。ひとまずはこれまで何度も見られたような、たとえばロングボールの処理を誤って決められるというようなおかしな失点の仕方さえしないことが重要です。
 で、札幌のスタメンはボランチが宮澤裕樹から上里一将に戻った以外は前節と同じメンバー。開幕当初は試行錯誤をしていたノブリンですが、選手たちもノブリンサッカーに慣れてきたのか、ここに来てようやく軸となるメンツが固まったような感じです。メンツが固まれば後はそのコンビネーションを高めていくだけであり、そういう意味では伸びシロはまだまだあると言えると思いますが、ひとまず今のメンバーを中心にそれなりに機能するようになってきている、というのはある程度選手の自信になっているようで、この試合でも開始から圧倒的な札幌ペース。前半28分、相手陣内で得たFKを西嶋弘之が飛び出してきたGKの上から頭で決めて先制点をゲットすると、その後も危なげなく岐阜にほとんどチャンスを与えず前半を1-0で折り返します。
 そして後半開始早々、左サイドでボールを拾った岡本賢明がドリブルで切れ込んで豪快に叩き込んで追加点を奪うと、後半20分にはカウンターからクライトンの絶妙な浮き球のパスに走り込んできた上里が右足でダメ押しとなる3点目を決めます。その後は疲れからか岐阜に攻め込まれ、片桐の直接フリーキックがゴールポストを叩くなど危ないシーンはあったものの、守備陣も集中力を切らすことなく相手を無失点に抑え、3-0で岐阜に快勝しました。

 とまぁそんな感じで試合の流れをざっと追ったわけですが、本題はここから。この試合のポイントをいくつか挙げていくと、まずは2点目。オレの持っているサッカーメソッドには、「ストライカーは人でなしであれ」、「GKは飛び出たら味方を蹴り飛ばしてでもボールに触れ」、「ちょろい横パス禁止」などと極めて偏った教えがたくさん書いてあるのですが、その中のひとつに「サイドアタッカーは勝負してなんぼ」というのがあります。状況にもよりますけど距離を詰めればすぐにパスを選択するような選手は相手にとって怖くも何ともないわけですし、逆に勝負を仕掛ければ相手を揺さぶることができますし、ファウルをもらうこともできます。加えて縦に行ってクロスと中に切れ込んでシュートという2通りのパターンを持っていれば相手は「どっちかを切っとけばOK」というわけにも行きませんし、両方止めるためにもう1人マークに来ればそのぶん中の人数が減るわけで、そうなれば得点チャンスも増えることになります。立場は逆ですが甲府戦の「なんでかミツまで行っちゃった」パターンですね。去年はちょっと迷いがあるようだったヤスですが、セレッソの先制点もそうだったように、だいぶルーキーイヤーの積極性が戻ってきた感じですね。逆サイドの征也も、もともと抜ききらないでもいいクロスを上げられるのですから、あとは「中に切れ込んでシュート」のパターンをもう少し増やせば、センターバックとGKを除くとまだ征也だけ得点を取ってないという状態から抜け出せると思います。
 次に、3点目の上里のゴール。あそこの位置に上里が走り込んできたことは特筆すべきだと思います。ボランチだろうがサイドバックだろうがチャンスとあらばゴール前に顔を出すというのは、現代サッカー、特に1トップの札幌においては重要なこと。かといって「ここは絶好のチャンスだぜ!」と相手ゴール前にみなぎった表情の荒谷僧正が突っ込んでこられても困るのですが、カウンターに入った時にカズゥがクライトンとほぼ同じ位置から長い距離を走っていったことであの得点が生まれたと言えると思います。まぁ珍しく右足で放ったシュートはぼてぼてでお世辞にもかっこいいシュートとは言えませんでしたが、オレの持っているサッカーメソッドには「入ったシュートがいいシュート」と書いてあります。要するに、どんなすごいシュートでも入らなければ得点にはならないし、逆に手以外のどの部位に当たったとしても、ゴールに入れば得点になるということですね。多分ですがこれまでの経験上、左足でジャストミートしてたら入らなかったような気もします。ちなみにオレの持っているサッカーメソッドは民明書房刊です。
 ただまぁ、これで3試合連続3得点、負けなしを続けている第7節以降9試合で20得点の荒稼ぎを続けているわけですが、試合後のコメントでノブリンも触れているとおり、流れの中から相手を崩してのゴールは実はあまり多くなくて、半分以上がセットプレイかカウンターによるもの。まぁ実際この数字は札幌に限らず現代サッカーの全体的な傾向ですし、形はどうあれ結果的に得点が入ればそれに越したことはないのですが、指揮官としてはどんなアプローチでも点が取れるようにしたいのでしょうし、今現在得点者のポジションがまんべんなく散らばっており、「どこからでも点が取れる」ようにはなってきているのですから、それができるようになればこの先チームとして安定した戦いができるようになる、ということなのでしょう。

 そして守備面ではまずは無失点で終えられたこと。まぁそうはいってもこれまでの試合と同じように後半リズムを崩すのは相変わらずで、実際には危ない場面がなかったわけではないのですが、それでもちゃんとやっていれば失点はある程度防げるんだ、という自信にはなったのではないかと思います。疲れてプレスがかかりにくくなってきた時にどういう対処をしていくかというのは課題かも知れませんが、結局のところ最後は戦術とか個人能力とかよりも強い気持ちがものをいうんだ、などとわかったようなわからないような感じでとにかく無失点はめでたいことです。加えて、その無失点試合を警告なしで乗り切ったことは評価されてもいいと思います。累積警告による出場停止もそうですが、何よりチームの総カード数を含む「反則ポイント」に応じて課される反則金がもったいないですからね。過去10シーズンで札幌が反則金を免れたのは2005年シーズンのたった1回のみで、10年間で800万円くらいの金額をJリーグにお布施してるのですよ。単位に直せば、1元気です。もちろん中にはしかたないカードもありますし、何でもないのにやたらめったらカード出す主審をなんとかしろという気もしますが、C3(異議)やC4(繰り返しの違反)はある程度避けられるカードだと思います。

 まぁ何はともあれ、前節時点で6位の徳島ヴォルティスがベガルタ仙台に引き分け、5位の水戸ホーリーホックがセレッソ大阪に負けたので、この2チームを勝点で上回った札幌は5位にまで浮上しました。昇格圏内の3位仙台とはまだ勝点で7の差はありますが、遅ればせながら昇格レースに食い込んできました。今後もこのまま上位に食らいついていきたいものですね。

2009年5月21日

笠松競馬場は茨城県ではありません

2009年Jリーグディビジョン2第16節
水戸ホーリーホック 0-0 コンサドーレ札幌
得点者:札幌/なし
     水戸/なし

 前節ようやく11人で完封勝利を果たしたコンサドーレ札幌は、今節はアウェイで水戸ホーリーホックとの対戦です。Jリーグ2部制がスタートした翌年の2000年からのJ2参入と現在のJ2では古株に入るチームですが、2部制スタート時にJ2にいた「J2オリジナル10」と呼ばれる10チーム(川崎フロンターレ、FC東京、大分トリニータ、アルビレックス新潟、コンサドーレ札幌、大宮アルディージャ、モンテディオ山形、サガン鳥栖、ベガルタ仙台、ヴァンフォーレ甲府)と、水戸の翌年に参入した横浜FCのうち鳥栖を除くすべてのチーム1度はJ1への昇格を果たし、残された鳥栖もシーズン終盤まで昇格を争った実績があるのに対し、水戸の過去の最高順位は2003年の7位と若干取り残された感じになっています。その理由はもちろん予算規模の問題。このサイトでも何かにつけて「コンサドーレは貧乏チーム」などというようなことを言っていますが、それでもJ2の中ではお金持ちの部類に入りますし、少なくともチームマスコットの入院・手術費にも事欠くほどではありません。4億円前後といわれる運営費では補強もままならず、そんな中でもいい選手は割と出てきてはいるものの、活躍するとすぐに他チームから引き合いが来るため、継続的な強化は札幌以上に難しい状況では、それもまた仕方がないかも知れません(つーかかつては札幌もデルリスを「強奪」しましたし)。ただ実は水戸は過去9年間で1度も最下位になったことがないんですね。J2最下位に終わった2004年のコンサドーレのトップチーム人件費(約3億円)はその年の水戸の運営費全体よりも多かったのに、大したものですね。
 まぁそんな感じで長いこと文字通りの「弱小チームの代名詞」みたいな感じだった水戸ですが、かつて札幌でプレイしていた木山隆之監督が指揮を執って2年目の今季は、大宮アルディージャを昨季限りで退団していたこれまた元札幌のFW吉原宏太が加入。その吉原効果(!)か、開幕前のテストマッチでは横浜F・マリノスや浦和レッズといったJ1勢に勝利、「これは本当に水戸か」とサポーターから言われてしまうほどでしたが、シーズンに入っても開幕戦こそ愛媛FCに敗戦したものの、第2節からは4連勝を含む7試合負けなしを記録し、その勝利が決してフロックではないことを証明します。ところが、その後得点ランキング首位を走っていたエースFW荒田智之が全治3ヶ月の重傷を負ったのをはじめとして主力に怪我人が続出、それと共に勢いも失速し、順位自体はは札幌と勝点1しか違わない6位をキープしているものの、ここ2試合は湘南ベルマーレ、セレッソ大阪と首位争いを繰り広げるチームを相手に連続で5失点を喫するなど、若干調子を落としています。
 そして遅ればせながら上位チームの追撃態勢に入った札幌にとっては、ここがいろいろと正念場の試合。といっても正念場じゃない試合があるのかと言われると困るのですけど、札幌が勝ってヴァンフォーレ甲府が負ければ甲府を交わして4位に浮上するチャンスがある一方で、負ければ水戸に抜かれて6位に転落してしまうだけに、踏ん張りどころとなります。

 ここ5試合の成績を比較すると、4勝1分の札幌と1勝3敗1分の水戸。主力に怪我人も出場停止もおらず、箕輪やソダンは除いてほぼベストのメンバーである札幌と、怪我人が多い上にここまで全試合出場していたMF森村昂太が出場停止の水戸。勢いやチーム状態から考えれば札幌が有利となるはずの試合でしたが、どっこい開始からほぼ水戸のペース。前節まであれほど機能していたプレスがまったくかからず、簡単に水戸にアタッキングエリアに侵入を許す有様。攻撃面では逆に相手のプレスに苦しみ、ボールキープもままならない状態。札幌はここ笠松での試合は過去9試合で2勝5敗2分と負け越していますし、今季第10節のファジアーノ岡山戦で荒田がハットトリックを達成するまではチーム唯一だった水戸のハットトリックも、ここでのコンサドーレ札幌戦で記録されている(2006年5月6日のJ2第14節・アンデルソン)ように、どうにも相性が良くないスタジアムではあるんですが、それにしてもチームのパフォーマンスは最悪で、誰が悪いというのではなくむしろいい人がいません。とにかくみんな足が全然動いていない。足が動かないからプレスがかからない、プレスがかからないから守備ラインを押し上げられない、押し上げられないからボールを奪ってもパスコースがない、パスコースがないからパスも繋がらない、パスが繋がらないからボールをキープできない、キープできないから攻めきれない、攻めきれないから愛が届かない、愛が届かないから踊れない、踊れないから夢見る少女じゃいられない、そんな感じでさっぱりな試合内容。
 逆に水戸の攻撃はロングボール中心の攻めで、そのこぼれ球を拾って展開していくという形。木山監督の指示ではあったみたいなんですが、水戸の中盤がクライトンやダニルソンを抑えるのに精一杯で攻撃まで手が回らなかったのか、攻撃自体は割と単調なもので、なかなかシュートまでは持っていけず。ただそれでも吉原からのスルーパスに高崎が抜け出してシュートを放ったり、村松のフリーキックに吉原が飛び込みポストに当たるなど、相手が肝を冷やすような場面はむしろ水戸のほうに多く、札幌もセットプレイなどでシュートはそこそこ打ててはいるんですが、前半の惜しいチャンスといえばクライトンの単独突破からのシュートと、前半アディショナルタイムに岡本がペナルティエリアの中で相手DFを交わして放ったシュートの2本くらい。0-0のまま前半を終えますが、なんだかいやな雰囲気です。たとえて言うなら、ホラー映画で金髪のおねいさんがシャワーを浴びてる時みたいな感じ。

 んで後半。前半の内容から考えればメンバー交代もあり得るかと思いましたが、後半頭からのメンバー交代はありませんでした。まぁ確かに前半はどう見ても褒められるところなんて何一つなかったといっても、かといってじゃあどこを替えれば良くなるかと言うとどこもかしこも悪すぎていじりようがないというのが本音だと思いますし、1人や2人替えたところで焼け石に水じゃ、とノブリンが考えてもおかしくはありません。あとはハーフタイムの指示でどこまで変わるかですが、いきなり開始早々吉原の突破から遠藤にフリーでシュートを打たれる体たらくで、良くなるどころかむしろダメまってる感じ。札幌も単発ながらもチャンスを作りますが、なんですかね、どのシュートもゴールマウスにATフィールドでも展開されているかのようにことごとく枠の外。枠に飛んだシュートって征也のボッテボテシュートが本間の正面にボッテボテ飛んでいってボッテボテとキャッチされた1本くらいしか記憶にないのですが、他になんかありましたっけ?
 その後もさして見所がない展開が続きます。確かにノブリンは開幕前に「アウェイではつまんないサッカーをするかも」という話をしていましたけど、曲がりなりにも5位と6位の攻防戦は掛け値なしにつまらない試合です。これで負けてたらたぶん選手もサポーターもショックとダメージのでかい試合になったかと思いますが、さりとてメンバー落ちまくりの水戸に勝てなかったことを残念に思うのか、それとも笛吹けど踊らぬようなパフォーマンスで引き分けに持ち込んだことをよしとするべきか、微妙なところではありますね。甲府も勝っちゃったし。

 それにしても、吉原が札幌からガンバ大阪へ移籍した1999年暮れから10年近く経って、このような形で戦うことになるとは思ってなかったですね。まぁそんなことより今まさにピッチに入ろうとした時に試合終了のホイッスルが鳴ったコンサドーレ札幌ユースU-18出身の鶴野大貴には心底同情した次第でございます。

2009年5月27日

ダメ・ストーリーは突然に

2009年Jリーグディビジョン2第17節
コンサドーレ札幌 1-1 東京ヴェルディ
得点者:札幌/岡本
     ヴェルディ/大黒

 「ホーム開幕が2度ある」と言われるコンサドーレのサポーターにとっては、待ち望んだ厚別での開幕戦。複数のスタジアムをホームとして使用するチームはコンサドーレに限ったことではありませんが、厚別はチームの歴史共にあり続け、その過程でいくつもの名勝負が繰り広げられたスタジアムであるのと同時に、屋外競技場である厚別で試合ができるということは、すなわち北国札幌にようやく遅めの春がやってきたことを告げるひとつの風物詩となっています。冬の終わり、すなわち春の訪れは広瀬香美以外の誰にとってもうれしいものだと思いますが、こと長い間深い雪に閉ざされる地に住む人たちにとってはきっと、そうじゃない土地の人たちよりもその気持ちが強いかも知れません。逆に言えばそれだけ雪国の冬は厳しいということであり、その辺は住んだことのある人じゃないとわからないでしょうね。軽々しく秋春制を唱える人が後を絶たないことを見ても。
 もっとも、少し前まではゴールデンウィークでの厚別開幕が恒例だったのですが、天候に左右されず立地的に集客の見込める札幌ドームが優先されるようになったのか、去年は中断期間やナビスコカップでの地方開催との絡みもあって、厚別での初試合は7月でした。そこまで来ると開幕気分はもちろん、いくら北海道でもそこまでいけば春すら通り越して既に夏になってるわけですが、今年も第1クール最後の試合と、タイミングとしてはが良くない時期での厚別開幕戦。どうせならもう1試合ずれて第2クールの初戦というのだったらよかったんですけど、こればっかりは「日程くん」のさじ加減ですからしかたないですね。
 さてそんな第1クール最後の試合の相手は東京ヴェルディ。一昨年にコンサドーレ札幌と共にJ1昇格を果たしたものの、昨季は16位のジュビロ磐田に得失点差で4点及ばない17位であえなく1年で降格。前回の昇格時はフッキやディエゴといった反則的な陣容を揃えていましたが、これまでその巨額の資金を捻出してきたヴェルディの親会社である日本テレビが、チームの経営権譲渡を検討しているという記事も出るなど経営状態は思わしくなく、今季は例年に比べればおとなしすぎるほどの補強。日本テレビ自体も広告収入の減少などで赤字となっている上、観客動員数も伸び悩んでいることから、今後も事態が大きく好転する見通しも少なく、他のJ2チームと同様、若手中心のチーム作りへの方針転換を迫られています。
 とはいえ、他のチームと大きく違うのは、ヴェルディには過去数多くのJリーガーを生み出してきた極めて優秀なユースチームがあることです。今季も全登録メンバーのうち3人に1人がヴェルディユース出身、この日のスタメンにも富澤清太郎、高橋祥平、富所悠、林陵平と4人のユース出身選手が名を連ねています(※高橋は二種登録)。ところで富所悠って昔バーモントカップ(フットサルの小学生大会)決勝で見たことがあるんですが、小学生とは思えないテクニックでしたね。確か大会優秀選手にもなっていたはずです。ちなみにこの時のヴェルディジュニアと優勝を争った横浜F・マリノスプライマリーには、今季マリノスユースからトップに昇格した斉藤学(同じく優秀選手)がいました。彼もやっぱりうまかったですね。ちなみにこのバーモントカップの優秀選手からは多くのプロ選手が誕生していまして、新しいところでは浦和レッズの高校生Jリーガー・原口元気や古くは小野伸二(現ボーフム)、山瀬功治(現横浜F・マリノス)もそうでした。他にも菅野孝憲(現柏レイソル)や森本貴幸(現カターニャ)といった面々も。
 話がそれてしまいましたが、そういった厳しい情勢の中でヴェルディは、横浜FCを昇格させたOBの高木琢也監督を迎えてシーズンに突入しました。開幕当初は怪我人の多さもあり出遅れてしまったものの、5月に入ってからは負けなしと徐々に調子を上げてきており、その間5試合で喫した失点はわずかに1と、横浜FC時代にも守備構築には定評のあった高木監督の戦術も浸透してきているようです。
 そして札幌のメンバーは、前節累積4枚目のイエローを受けた趙晟桓が出場停止。たまにミスもありますが今の札幌にはクライトンと同じくらい欠かせない選手なだけにその穴をどう埋めるか…といってもあと残ってる出動可能なセンターバックって、今季まだ出場のない柴田とまだトップでの出場がないほっちゃんくらいしかいないので、たぶん前節晟桓がカードを出された瞬間に大多数のサポーターが思った通りに、センターバックは吉弘と西嶋。ただし、それで空いたサイドバックには芳賀が入ると思ってたのですが、ノブリンが打った手はここ最近左サイドバックに入っていた大伍が右に回り、左に上里を置くというものでした。上里のサイドバックは確か三浦監督時代の2007年にサテライトリーグでやってた記憶はありますが、適正よりも消去法でそうなったという印象が強かったですし、トップチームではもちろん初めて。まぁ空いたボランチには宮澤が入っているので、この試合も攻撃を優先したら消去法でこうなったという感じですけどね。
 まぁそんなわけでこの試合の前日に湘南ベルマーレ、セレッソ大阪、ベガルタ仙台、ヴァンフォーレ甲府の上位陣が揃って勝点3を上積みしている上、相手のヴェルディも順位こそ8位でも札幌との勝点差は2しかないため、ヴェルディに負けると他の試合の結果如何では7位にまで順位を落とす可能性もあるだけに、いつも言ってるような気がしますけど踏ん張り所です。

 さて試合は、前節まったく動けずに相手ペースのまま90分を終えたのが嘘のようにこの日は開始から札幌がヴェルディ陣内に攻め込みます。ところが、一見景気よく攻め込んでいるように見えてもその実あまり決定的なチャンスはありません。風の影響もあったのかも知れませんが、それにしてもなんか違和感があります。ヴェルディにほとんど攻めるチャンスを与えないほどボールを支配していた割には、前半記録したシュートは5本。決して悪い数字ではないですけど、試合内容から考えればもう少しいい形でフィニッシュに持って行くシーンがあってもいいはず。上里も頑張ってはいたのですがやはり本来は真ん中の選手のようで、もともと攻め上がって勝負を仕掛けるタイプではないですし、サイドバックと言うよりはどちらかといえばトレスボランチの左の人というか、今までのチームのやり方からは若干浮いた感じで、少女隊で言えば引田智子のポジション。そのためか左サイドの前目にいる岡本とのコンビネーションがほぼ死んだ状態になり、そうなると札幌の攻め手としては右サイドの征也しかなくなるわけですが、現状征也の場合縦に行ってクロスのパターンがほとんどのため、ヴェルディとしてはクロスボールにだけ気をつけていればいいため、対応としては比較的やりやすかったのではないでしょうか。相手の人数と体勢が揃っているところになんぼ放り込んでも、そうそう得点に結びつくものではありません。ただヴェルディにしても守備はともかく攻撃のほうは惨憺たるもので、せっかくボールを奪ってもパスミスでフイにする様はかつてのコンサドーレを見ているようです。いや今もあんま変わらないかもしれないですけど。別に守備的な戦い方をしているわけでもないのに、前節時点で得点数17はリーグ10位、そのうち約半分が大黒将志1人の得点というのも、そのあたりに理由があるような気がします。まぁそんな感じで前半は0-0で終了。
 後半も流れはだいたい前半と似たような感じで、取れそうな気はするけどでもやっぱり取れそうな気もしない、という複雑な乙女心サッカーが繰り広げられます。それでも先制したのは札幌でした。後半18分、右サイドを突破した紀梨乃がペナルティエリアの中でクライトンにパス。この時ヴェルディのDFも人数は揃ってはいたんですが、あそこでクライトンにボールを持たれてしまったら、うかつに飛び込んでも交わされるだけでしょうし、下手すればPKを与える危険もあります。なのでシュートコースを塞ぐのがまず最優先となるのも致し方ないところだとは思いますが、そんなヴェルディDFをあざ笑うかのように、クライトンがちょいと出した短いパスに逆サイドから走り込んできた岡本が豪快に蹴り込んでゴール。前半は余り目立たなかった岡本ですが、ここはキッチリ仕事をします。岡本はこれで紀梨乃に次ぐチーム2位タイとなる4ゴール目。相変わらずゴールパフォーマンスはかっこよくないですが、これからもゴールを決め続けてほしいものです。
 さて前節こそ無得点に終わったものの、それまでは3試合連続で3得点ずつの荒稼ぎを続けていました。かといって札幌が寝た子も起きるほどのグンバツの攻撃力を持っているかと言われればそういうわけでもなく、どちらかといえば1点取れば調子に乗って2点3点取る、みたいな感じなのですけど、その1点がようやく入ったことによって追加点も期待できます。そしてそのチャンスは意外に早く訪れました。先制から6分後の後半24分、相手ペナルティエリアやや手前でのロングボールに、相手DFと競り合った紀梨乃がうまいこと身体をぬるっと入れてにょろっと奪い、あっという間にべろっとGK土肥と1対1に。よっしゃこれで2点目ゲットだぜ、と思ったその瞬間、狙い澄まして右足を振り抜いた紀梨乃のシュートは、絶妙にゴールの外へ。おそらくスタジアムやテレビで一部始終を見守っていたサポーターの全員が、この瞬間天を仰ぐかずっこけるかがっくり来るかタマゴを生んだかいずれかの行動を取ったかと思います。こういう場面で確実に百発百中で仕留められるような選手だったらきっと札幌には来てないでしょうし、ダヴィだったら豪快にGKにぶち当ててたでしょうし、俺王様だってどフリーをぶっぱずしたこともありましたからしょうがないと言えばしょうがないのでしょうけど、こうやって決めるべき時に決めないとどうなるかは今更改めて言うまでもないこと。しかしそれでもヴェルディはほとんど攻撃らしい攻撃はできず、試合の流れが大きく変わったようには見えませんでしたし、おまけに後半38分には富澤が2枚目のイエローで退場。常識的に考えれば、数的不利に陥ったヴェルディにもはやチャンスは残されていません。
 ところがどっこい、我々の応援するコンサドーレ札幌というチームは、そんなささいな常識にとらわれないスケールの大きさが自慢です。アディショナルタイムに突入しもう試合時間も残りわずかという時に、中盤でボールを抑えたはずの宮澤とダニルソンが、何かとても大切なものを見つけたかのように慈愛に満ちた目でボールを見守っているスキにかっさらわれます。そしてゴール前に送られたボールをクリアしようとした西嶋が、何かとてもイヤなものがやってきたかのようにキックミス。こぼれたボールに詰めていた大黒に決められ、同点に追いつかれてしまいました。
 結局そのまま試合は1-1のドローで終了。「家に帰るまでが試合です」という言葉がリフレインする厚別開幕戦でした。

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