エル・マタドールの憂鬱
グアムキャンプも2週間が過ぎ、その間韓国Kリーグの仁川ユナイテッド、昨季J1リーグ12位のFC東京とテストマッチを行い、両試合とも1-1というまずまずの成績を挙げています。得点者は仁川戦が岡本、東京戦が石井謙伍と若い選手が結果を残しておりますが、三浦監督にとっては攻守共にまだまだ課題は多いようで、注目のノナトもまだノーゴール。ただ監督はゴールよりも守備面でまだフィットしていないことのほうが気になる模様で、守備練習の際も主力組とサブ組の両方で守備に加わることを命じられた、と報じられています。とはいえウェイトオーバー真っ盛りのノナトがリャンメンで持つはずもなく、当然のようにヘロヘロ。「今までいろいろなチームでやったが、ここまで守備を求められたことはない」とぼやいたそうです。確かに普通FWというのは得点を求められる代わりに守備をすることは免除される場合が多いわけで、ましてやオノレの体力も技術も全てゴールに使うストライカーとして何チームも渡り歩いてきたノナトにとってはアイスクリームに醤油をかけて食べるくらいあり得ないことに思ったかも知れません。
しかしながら、札幌においては守備もFWの重要なタスク。三浦サッカーがそうだからというよりは、飛び抜けた能力を持つ選手のいない札幌にとって相手を個人の力でねじ伏せるような守備にはあまり期待できませんから、なるべくゴールより遠い位置でボールを奪うことが重要。高い位置でボールを奪うということは相手のゴールにより近い位置で奪うということですから、攻撃面でもメリットはあります。とはいえFWの地点でボールを奪えるようなことは滅多にないので、結局FWの守備に必要なのは、相手に余裕を与えずにパスコースを限定させること。要するにあっさりボランチにパスを通されてそこから展開されるとつらいので、横パスさせてサイドに追い込むか、長いボールを蹴らせてソダンに迎撃させるのが理想的です。だからこそFWの守備は後ろの選手と連動した動きが必要で、いくら守備が重要だからといって闇雲にチェイシングするだけだと後ろの選手は却ってフォローに困りますし、本人も無駄に体力を消耗するだけといいことは何もないわけです。
まぁそのあたりの「連動した守備」については何もFWに限った話ではなく、通常どんな戦術を採ったとしても守備をする人たちは常にそれを意識しなければならず、三浦サッカーの場合はそのスキームにFWも含まれているというだけの話であり、その辺りが三浦サッカーがシステマチックだといわれるひとつの理由でもあるんですが、この辺はノナトに限らず、本来個人主体のサッカーが好まれる傾向にあるブラジル人にとってはなかなか理解しがたいものなのかも知れません。「インテリジェンスのあるビジュ」というすごいのかすごくないのかよくわからない評価をされ、大学へ通ったりもして語学力も堪能だったカウエも「守備のタスクがあまり理解できていない」とシーズン終盤はスタメンから外れることも多くなり、結果退団となってしまいましたし、17ゴールを挙げて完全移籍を果たしたダヴィにしても、守備面に限ってはまだまだ三浦監督も合格点は与えていないようですからね。そんな感じなので、三浦監督も厳しいことは言いつつも割と長い目で見ていると思います。いずれにしてもノナトの出来が今季の札幌の命運を握っているといっても過言ではないのですけど、札幌史上最高のストライカーと個人的に認定している俺王様ことウィルも、最初に合流したときは体重オーバー、キャンプでも当時の岡田監督にいろいろダメ出しされてましたからね。ノナトは俺王様ほど俺様ではないようですが、ダイエットも守備も頑張ると言っているようですから、まぁ大丈夫じゃないでしょうか。個人的には、そこで「デブでヒゲはダメなのかよ」と言ってもらえればもっと面白かったのですけど。