2007年Jリーグディビジョン2第52節
コンサドーレ札幌 2-1 水戸ホーリーホック
得点者:札幌/馬×2
水戸/塩
長い長い男坂のようなJ2リーグもついに最終節となりました。例年以上にもつれた昇格争いもこの日で全てが決まります。前節試合がなかった間に東京ヴェルディ1969に得失点差で逆転され首位を明け渡したものの、その可能性を大きく残す札幌は、この試合を引き分け以上で終えれば昇格が決定します。その運命の試合の相手は水戸ホーリーホック。現在12位の下位とはいえ、これまで幾度となく苦汁をなめさせられたチームです。首位と同勝点の2位チームが最下位と勝点1差でかろうじてブービーのチームと戦うホームゲームですから、客観的に考えれば負ける可能性は低いのですけど、J1で優勝を争っているアジアを制したチームがJ2で10位のチームにホームで負けることもあるのですから、サッカーには紛れはつきものです。水戸は2000年の参入以来、昇格争いに絡んだことはもちろん、順位表の上半分でシーズンを終えたことすらないチームではありますが、札幌なんてその水戸よりも弱かった時代もあったわけで、今季も1度負けていますから、サポーターとしては心配ばかりが募ります。
水戸としても11位の草津とは勝点7の差があり、この試合に勝ったところで上の順位になるわけでもないですが、この試合に負けて最下位徳島ヴォルティスがベガルタ仙台に勝てば最下位が決定してしまいます。意外といっては失礼ですが、J2参入以降の水戸は先述の通り順位表の半分から上でシーズンを終えたことはない一方で、実は順位表の一番下でシーズンを終えたこともありません。ちなみに札幌はあります。J1への昇格という華々しい(と言うほどのものでもないですけど)結果に比べれば些細なことかも知れませんが、既に退任が決まっている前田監督のラストゲームに花を添えたいという気持ちもあるでしょうから、手を抜いてくることは期待できそうもありません。
で、試合はやはり水戸が真っ向勝負で挑んできました。引き分け以上で昇格の決まる札幌は、極端な話90分守りきって0-0で終えても目的は果たせるわけで、だったら俺たち貝になるぜ下位が相手だしなんてこのも可能なわけですけど、札幌の昇格を見に詰めかけた2万8千人という、前々節京都サンガFC戦には及ばなかったものの、それでも「ドームを満員にしよう」とキャンペーンを張って必死こいてサポーターがお客さんを集めに走った9月15日の仙台戦をあっさり上回るお客さんの目の前で、ブービーのチーム相手に矢倉囲いやるのもどうかという気はしますし、しかしそうは言っても攻めに出てカウンターをボカンなんてのも困る…ってな感じで、「なるべくリスクを負わずに点を取ろう」という魂胆が見え隠れする札幌イレブン。まぁよく考えればいつものことなんですけど、この試合は「勝ちたい」というより「負けたくない」というマイナス方面の意識が強いような感じで、こういう時は得てしてなんとなく失点してしまったりするもの。前半11分の水戸のコーナーキック、村松の蹴ったボールをニアサイドで鈴木和裕が逸らし、塩沢がなんとか頭で合わせたボールは、必死に手を伸ばした高木の腕をあざ笑うかのようにゴールに吸い込まれていきました。シュート自体は限りなくまぐれのような弾道でしたけど、ニアサイドの低い弾道のボールをクリアできなかった時点でこうなる可能性も十分あるわけで、取られるべくして取られた点ではあります。どちらにせよ札幌が1点のビハインドを負ったのは純然たる事実としてのしかかってくるわけで、折しも3位の京都が前半6分に田原のゴールで先制、首位のヴェルディも前半14分にディエゴのゴールで先制という情報が入ってきます。つまり、このまま終われば優勝はもちろんのこと、なんだかんだで首位を守り続けてきたチームがラスト2節で入れ替え戦行きという、限りなく札幌らしい未来が僕らを待っています。
尻に火が付いた札幌はここでようやく攻めるしかないという開き直りを見せ、水戸ゴールに迫ります。しかしいつものようにあと1本のパスの精度が足りず効果的な攻撃に結びつけられません。この時点で選手たちにはもちろん他会場の結果は耳に入っているはずもありませんが、見てる側としては既に他力本願寺を期待できる状況ではないため、まだ時間はたっぷり残っているというのに「このまま1点も取れないんじゃないか」というイヤな予感もじわじわとし始めます。そんなネガティブハートにロックオンなゴールが生まれたのが、前半も終わりに近づいた43分のこと。左サイドからおそらく西澤画伯が蹴った適当っぽいクロスボールを大伍が頭で折り返し。このボールはいったんは相手にクリアされますが、最初に競った時点でさりげなく相手に48の殺人技(画伯直伝)のひとつ「見えないエルボー」をお見舞いして無力化し、さりげなくフリーとなっていた大伍が再度ヘッドで折り返します。このボールに飛び込んできた砂川が胸トラップで落としたボールを、シュートする気マンマンの砂川が触る前にダヴィが右足のボレーで叩き込んでゴール。ようやく同点とした札幌はアディショナルタイムにもやはり大伍のクロスにダヴィが強烈なヘディングシュートを合わせますが、これはクロスバーに阻まれ得点ならず、結局1-1で前半を終了。
とりあえずは追いつくことに成功し、再び地力昇格の可能性を高くした札幌。1点を取ったことで気分も前向きになったか、ようやく「勝ちに行く」ことで意識が統一された模様です。三浦監督も後半14分に砂川に替えて岡本を投入。これはもう明確に「点を取る」ことの意思表示であり、その岡本は入って最初のタッチでシュートを放ちリズムを作ります。ところが24分、クリアボールを拾って前線にフィードを仕様とした西嶋が突然脚を押さえて倒れ込みました。なぜか主審は試合を止めず試合を続行していましたが、傍目から見ても重い怪我であることは明らか。フルシーズンで続けてきた西嶋の身体も悲鳴を上げていたようで、すぐに池内と交代。おそらくフル出場はまだ無理であろう大伍を頃合いを見て征也に交代させ、そして謙伍の投入タイミングも見計らっていただろう三浦監督にとっても痛い交代となりました。
とはいえ、このまま引き分けで終わってもとりあえずは大丈夫なわけで、切り替えるのにそれほど時間はかからなかったようです。札幌はとにかく、負けさえしなければいい。当たりさえしなければどうってことはないとはちょっと違いますが、脳さえ無事なら再生できると言う感じ。で、そういういい意味での開き直りは、えてして好結果を生むものです。この頃にはヴェルディがセレッソ大阪に追いつかれ2-2となったという情報が入ってきており、そのまま終わって札幌が勝てば再びヴェルディを抜いて優勝となります。J2の賞金は、1位で2,000万円、2位が1,000万円です。つまり、1点が1,000万円の価値を生むのです。その待望の1,000万は、後半38分に生まれました。自陣でクリアボールを拾った岡本が、迷わず前線のダヴィに向けて長いパス。「GKが出てこれないところに落とせば、ダヴィなら競り勝てると思った」という岡本のコメント通り、出足では平松に後れを取ったダヴィでしたが、さすがに「馬」と呼ばれるだけあるスピードとフィジカルの強さで競り勝ちペナルティエリア内に侵入すると、さすがに「馬」と呼ばれるだけある「ひづめシュート」でゴールネットを揺らしました。ついに札幌が逆転に成功します。
いつもよりも長く感じたアディショナルタイムの途中で京都が引き分け、その瞬間札幌の昇格が決定。そして札幌に歓喜の瞬間が訪れた直後にセレッソ対ヴェルディの引き分けの報が入り、札幌は優勝も確定させました。通算成績は27勝11敗10分、勝点91、66得点45失点。リーグ最少の失点数に対し、得点力はリーグ7位。文字通りチーム一丸で守り抜いて得た歓喜でした。