「サポは死んでも治らない」
サポーターというのは因果な生き物です。普通の人から見ればたかがJ2のチームのためにわざわざ地方に遠征に行こうなんてとても理解できないでしょうし、しかも目的はリーグ戦ならまだしもたかが練習試合ごときのため。我ながら酔狂だと思いますが、開幕前のチームを少しでも早く見たいというのはサポーターの当然の心理。それが私の生きる道。近頃私たちはいい感じ。ということでちょうどマイルも貯まったので、熊本キャンプも大詰めに入った18日、KKWingにて行われるロッソ熊本との練習試合を見に来ました。
ロッソといえば市村、河端、鎌田、森川、加藤といった元コンサドーレ選手が多く在籍しているチームですが、今季からJリーグ参入を目指してJFLを戦うため精力的な補強を敢行しているチーム。元福岡の福嶋や元大宮の高橋泰らもおり、多くのJチームがキャンプを行う熊本を本拠地としている利を生かし、J1、J2チームとの練習試合を多くこなしています。先日行われた横浜FCとの練習試合では後半ロスタイムに鎌田のゴールで1-0で勝利し、自信を深めているようです。今回のコンサドーレ札幌のとの試合でも、ベストメンバーを揃えてきました。
対する札幌の布陣は、GK林"シャイニング"卓人、DFラインは右から唯一神ソダン、アバレッド池内、美白の貴公子和波。ウィングバックは左に関"クロちゃん"隆倫に右は芳賀市長、ダブルボランチが大塚塾長に塾生1号智樹、トップ下に西谷、2トップはフッキと謙伍。現状ではほぼベストメンバーと言っていい布陣ではないかと思います。サガン鳥栖との開幕戦に向けてこのメンバーでどこまでやれるかが注目点となるでしょう。
などとわかった風なことを考えながら見ていたわけですが、結果から言えば「ビックリ」の連続な試合でした。それも「いい意味のビックリ」です。当然「悪いビックリ」もあるけど。そんなビックリ連続の練習試合の様子と、自分から見た各選手の寸評をお送りします。
さて試合ですが、まずは開始早々の前半7分頃、中央でのつなぎからフッキが左サイドのスペースに出したパスに追いついた関が左足で上げたクロスに石井謙伍がニアで頭で合わせると、ボールはファーサイドのネットに緩やかに収まりいきなり札幌が先制します。滅多に見られない「謙伍のヘディングゴール」は、アイカーのお株を奪うかのような難しいゴールで、これがまず最初のビックリ。早々に失点したロッソは森川を使って左サイドから攻め込もうとしますが、札幌は大塚を中心に小気味いいプレスをかけ続け、ロッソの攻撃をほとんどと言っていいほど寄せ付けずペースを握ります。そうこうしているうちに前半35分頃、右サイドでボールをキープした芳賀を後ろから突進してきたソダンが神の如し直線オーバーラップで追い越し、前に出たパスをダイレクトでクロスを上げると、神の右足から放たれたボールは神の如き弾道を描いてロッソゴール前へ。ニアに飛び込んだフッキにDFがつられた後ろでどフリーとなっていた西谷が落ち着いて蹴り込み2点目をゲット。神のアシストという2度目のビックリで追加点を得、前半は2-0で終了。
後半もメンバー交代はなし。前半同様札幌が攻める場面が多くみられます。謙伍が1対1のチャンスを外し、横にいた城福強化部長に「へったくそ…」と呟かれるシーンもありましたが、基本的には札幌ペース。ボランチの大塚を中心に中央突破からサイドへ、サイドから中央へと「やりたいこと」はかなり出来ている模様。15分過ぎにヤンツーは関に替えて川崎を、西谷に替えて西を投入します。交代で入ってきた2選手はいまいち試合の流れに乗りきれていないため若干札幌の攻撃も停滞状態となりますが、ここで火を吐いたのはフッキ。それまでも持ち前のキープ力でチャンスメイクをしていましたが、手詰まり気味の攻撃陣にシビレを切らしたか、20分過ぎに2人のマークをモノともせず突破し、止めに来た3人目までちぎり捨ててゴールをゲットすると、30分過ぎには森川のバックパスが弱かったのを見逃さずにかっさらって、キーパーも落ち着いて交わして無人のゴールに流し込んで2ゴール目を挙げ4-0となりました。超人フッキのビックリプレイに2度ビックリ。
大量リードを得た札幌はその後はちょっとだらだらしてしまいますが、ロッソの攻撃も無失点で抑え申し分のない結果をあげました。
さて、これで熊本遠征の主目的はつつがなく終了…と思っていると、なにやら試合に出なかった控え組の選手たちがピッチに入ってきてアップを始めています。あれ? 今日は45分2本だったはずだけど…。でも明らかに選手の様子はこれから試合をやるような感じ。近くにいた城福強化部長に「今日は4本なんですか?」と聞くと「4本だよ」ということ。ということで2セット目もやるようで、メンバーはGK 原、DFは左から千葉、野本、加賀、左サイドが引き続き川崎、右サイドが征也、ダブルボランチが西嶋と金子で、トップ下にスナマコ、2トップが相川と清野という布陣です。2本かと思っていたらボーナスチャンス到来、こりゃあビックリと思っているヒマもなく、開始早々に征也とポジションチェンジして右サイドを駆け上がったスナマコからのクロスを清野がダイレクトボレーで豪快に叩き込んで先制点をゲット。うわ、いきなり来るとは思わなかった上にすんげえビックリびゅーちふるゴール。
またしても札幌が早い時間に先制しますが、その後の試合運びはさすがにレギュラー組と比べるとあまりうまくありません。野本が率いるDFラインは1セット目の池内に比べてやや深く、相川と清野の2トップはどっちかといえば全戦に張り付く傾向にあるため、ラインが間延びしてしまい中盤が薄くなってしまいます。そのギャップを埋めるためにウィングバックが中に入ったりするため、サイドの攻撃があまり機能せず。それでもこのメンバーではスナマコの存在感は別格で、彼を中心にチャンスを作り出します。そして前半25分頃にコーナーキックから川崎が蹴ったボールを相川が頭で決めて追加点をもぎ取りました。相変わらず難しいゴールはなぜか決める相川でしたが、後の公式発表ではこのゴールはなかったことにされました(後に訂正済)。その後もロッソGKの奮闘で追加点は奪えなかったものの、前線のトライアングルを中心にたびたびチャンスを作り出します。
ところが、好調な攻撃陣に比べて守備陣はいまいち不安定。レギュラー組であればこういう場面で頼りになるのが大塚なのですが、百戦錬磨の大塚に比べてまだボランチ歴の浅い西嶋にその役割を求めるのは酷というもの。攻められる時間も長くなり、前半40分頃には左からのクロスをファーサイドにいた町田に決められ失点、前半はこのまま2-1で終了します。
後半は清野に代わり元気が登場し、川崎もここでお役ご免となり左サイドには再び西が入ります。ここまでFW登録の選手全員がゴールを決めており、ここまでの練習試合で3得点をあげている元気にも当然ゴールの期待がかかります…と思っていたら開始早々に左サイドでボールキープしていたスナマコをオーバーラップした千葉が追い越し、ダイレクトで上げたグラウンダーのクロスを中央で西がスルー、その後ろに走り込んでいた元気が落ち着いて押し込んで3点目をゲットします。またしてもいきなりでビックリ。なんだかFWが全然点を獲れなかった去年と違うなぁとホクホクしていたら、いいことはそうそう続かないもので、3点目のアシストを決めた千葉がその直後に相手選手を後ろから引っかけてしまい、2枚目のイエローカードで退場してしまいました。
千葉の穴はそのまま西嶋が3バックに入り、スナマコボランチ、アイカートップ下とそれぞれスライド(正確に言えば元気とアイカーは頻繁にたてのポジションチェンジをしていた)。この辺り選手交代をしなくても対応できるのはユーティリティ性の高い選手がいる強み。まぁ交代させようとしたところでベンチに交代要員なんていなかったんだけどな。数的不利に陥った札幌は次第にサンドバッグ状態に陥り、10分過ぎには野本が相手をペナルティエリア内で倒してしまいPKを献上、このPKを鎌田にキッチリ決められ2点目を失いました。こうなってくると札幌ももう立て直すことも出来ず、ロッソに攻め込まれる時間帯が続きます。攻めようにもパスが繋がらず、前へのクリアが精一杯という感じで、札幌サポーターとしては目も当てられない状況になってきたわけですが、近くにいた城福部長もそれは同じこと。試合がしょぼくなるにつれ、城福部長のぼやき・通称「城福節」も頻度を増してきます。空いているサイドとは逆方向に展開したシーンで「そっちじゃないんだよ…」、野本が前にどっかんとクリアしたのを見て「なんでスナが空いてるの見えんかなぁ野本…」、プレスをかけられた西が金子に"助けてパス"を出したのを見て「そんな狭いとこに出しても通らんて…」、加賀が変な浮き球パスを出したのを見て「うあぁ…なんでそんなパスするんやろ…金子フリーなのになぁ…」、相手に囲まれて苦し紛れにパスを出した金子を見て「出してやったらいいんや金子…清野に…」などと城福節全開。しかしそれでも加賀のオーバーラップから上げられたクロスを後方から走り込んできた征也がダイレクトで叩き込んだシーンには「こりゃあ素晴らしい」と感嘆の声を上げ、その前に加賀がうまく抜け出したプレイにも「うまい」と声を漏らすなど、褒めるときはちゃんと褒める部長。まぁ、単なるサッカー好きのオッサンとも言えますが。結局試合はこのまま終了し、2セット目も4点を上げた札幌が4-2で勝利しました。
さて全体的な感想ですが、新戦力も思った以上にフィットしており、去年までと比べてだいぶ「やれること」の幅が増えてきたと思います。まずは順調な仕上がりと言っていいでしょう。「中盤とサイドのプレイヤーがパスを繋ぎながらボールをキープ、オーバーラップして追い越したDFがクロスを上げ、FWが1人ニアで潰れて後ろの選手が決める」というパターンが多くみられ、実際8点中3点がこのパターンによる得点でした(1セット目の西谷、2セット目の元気、征也)。後ろから追い越してくる選手はフリーの状況になる可能性が高いので、この攻撃はわかっていても非常に有効となるでしょう。その他にもワンツーからの中央突破など、攻撃のバリエーションはなかなか見ものです。また、FWの選手たちも全員調子よさそうで、フッキは確定としても、相棒は誰が開幕戦のピッチに立つのかまったくわかりません。あとは1セット目は意外とフッキ頼みということはなく、どっちかというと謙伍のほうがよく絡んでいました。
反面、守備に関しては1セット目と2セット目にだいぶ差があると感じました。まぁ3バックに関しては個人の力量の面だけではなく、組み合わせの問題もあるのである程度は仕方がないとはいえ、中盤は大塚がいるといないとでは大違いです。この部分が札幌の最大のストロングポイントでありウィークポイントであると言えるかも知れません。ただ、全体としてチーム力が上がっているのは間違いないと思います。相手との兼ね合いもあるのでリーグ戦でどこまでやれるかはわかりませんが、夏頃には西澤画伯と上里カズゥもフッキするでしょうし、これなら期待してもいいんじゃないかと思います。
というわけで、以下各選手の個人的寸評。
#1林…やっぱり声でけえ。攻められる回数自体があまりなかったが、安定感は出てきたように思う。
#7和波…それほど多く攻め上がるわけではなかったが、今ならこの位置のほうが生きるような気がする。DF面の課題はさておき。
#5池内…特に問題なし。CKで惜しいシュートを放つなどらしさも見せる。外す理由が見当たらない。
#4曽田…久しぶりのストッパーは空中戦以外ではやっぱりちょっと怖い。ただしストッパーだから神アシストが出たと思うと魅力的。
#18芳賀…本来は真ん中の選手らしく、窮屈そうにするシーンも何度か見られた。ただ、運動量もあるし安定感もある。
#16大塚…絶対に怪我をしてはいけない。この人なしの中盤は考えられない。
#14鈴木…今日はちょっと浮いてた感じで、ミスが多かった。ただし要所要所で見せるロングパスはさすが。
#29西谷…視野の広さはさすが。ボールを持つと周りの選手が一斉に動き出すので見ていて楽しい。
#19関…左サイドはおそらくこの人で決定。先制点のアシストも含め、多くのチャンスを作っていた。
#10フッキ…川崎ではそんなに凄い選手だとは思わなかったけど、自分の見る目がなかったらしい。でも近距離のフリーキックは蹴らないでください。
#9石井…先制ゴールはよかったけど、それ以外は決定的チャンスを少なくとも3回は外していた。成長はしているけどまだまだエースには遠い。
#28 原…怪我のブランクもあるかもしれないけど、中途半端な飛び出し厳禁。
#23千葉…攻撃面で1アシスト。守備面ではうかつに飛び込むクセを直さないとまた退場するよ。
#24野本…真ん中はあまり向いていないのかも。持ち味がよくわからなかった。
#15加賀…こちらも1アシストだけど課題は千葉と同様。間合いがちょっと悪い。
#25征也…ゴールは見事の一言。守備面での課題はあるものの、流れを変えることが出来そうなので、開幕戦ベンチもあり得るかも。
#6西嶋…あまり見せ場を作れなかったが、空いた中盤を1人で支えていたので気の毒な部分もあった。
#21金子…FWを追い越す動きは一番出来ている。その分西嶋が置き去りにされたけど。
#22川崎…まだ迷いがあるように見受けられるが、それでも1対1で勝負していた。もっとやれるはず。
#8砂川…さすがにこの中では存在感は一番。自由にやらせるのがいいのかも。
#11相川…相変わらず難しいゴールは決めるが簡単なゴールを決められない。ポストも雑なところがある。このままだと量産型城彰二になってしまう。
#17清野…動き出しはかなりよかった。でもポストをやらせてはいけない。
#13中山…FWらしい動きが随所に見られた。でもポストをやらせてはいけない。
#27西…まだまだ試合で有効な働きが出来ていない。精進あるのみ。